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持丸長者 戦後復興篇

書名:持丸長者 戦後復興篇
   日本を動かした怪物たち
著者:広瀬 隆
発行所:ダイヤモンド社
発行年月日:2008/4/10
ページ:485頁
定価:1900円+税

幕末・維新編、国家狂乱編に続き、産業と金融制度の変遷を通じて日本の近現代史を解き明かそうという壮大なる三部作の第三弾です。この戦後復興篇は必読の書、またデータベースとしても良い本だと思います。戦後の歴史として殆どの人がしらない事がいっぱい出てきます。

例えば、敗戦直後、鈴木貫太郎内閣は、占領軍が進駐すれば軍需品を没収されると読み、本土決戦に備えて全国に分散・備蓄していた燃料・貴金属・食糧を軍人のつかみどりに任せました。その量は当時の価格で2400億円相当、現在では数十兆円に該当するそうです。それに続く東久邇宮稔彦内閣は、軍需産業救済のため、戦争が終わったにもかかわらず巨大な臨時軍事費特別会計を組み、損失補填金として266億円を支払いました。またほとんどただ同然で手に入れた軍需資材がハイパーインフレによって暴騰し、大企業は莫大な利益を手に入れた。

これらの資金がM資金と呼ばれたり。自由民主党の発足資金に回ったり。政商と言われる人々を暗躍させている。いままだ生きている人もいるし、比較的名前位は知っている人々が出て来る。

東久邇宮内閣が設置した終戦処理会議は、「在外邦人は現地に於て共存」、つまり軍人の帰国を優先させて一般人を切り捨てる決定をしました。(しかし船舶運営会を中心とする船員たちは、アメリカ船舶を貸与してもらい、数多の機雷が設置されている日本海を往復し、命がけで一般人の引き揚げ・帰国に尽力) 政府は何もしなかったのですね。

今、福島原発の事故で興味ある内容として原発開発の歴史を引用してみます。

本書より
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大学卒ではない人物が総理大臣にのぼりつめたので、太閤秀吉の再来とばかり、角栄の登場に拍手を送った。ここで国民が、最大の詐欺にあったのが、原子力発電の建設であった。なにしろ一基建設するだけで数千億円という巨大なプラントである。政治家へのリベートはたちまち百億円を超える。
 第一次オイルショックでぐんぐん原油価格が上昇するなか、「石油火力から原子力へ」と脱石油を宣伝しながら、実においしい話であった。これを支える集金システムとして、七四年六月六日に電源開発促進税法が公布されたのである。これは、発電所の建設を促進するためと謳って、電力を使用する量に合わせて電力会社が消費者から金を集めて、建設予定地周辺の市町村に交付金として配分しようと、錬金術師・角栄が悪知恵をしぼった法律であり、関連三法と合わせて電源三法と呼ばれ、十月一日に施行された。危険な原発の建設に対しては全国で猛烈な反対運動が起こっていたので、事実上は、原発建設のための「消費税導入」であった。電源開発促進税は、税率が変更され、二〇〇七年度以降、一〇〇〇キロワット時あたり375円が徴収されている。

わが国のエネルギーは、電力会社のほかにも生産可能である。東京ガス、大阪ガス、新日本製鉄、JFE(日本鋼管+川崎製鉄)、神戸製鋼所、住友金属産業、NTT、トヨタ、太平洋セメント、住友大阪セメント、新日本石油、出光興産などの大手企業は、独立系発電事業者と呼ばれ、これらの企業が保有する発電設備は、自社内用の発電ではなく、社外に売電可能な設備である。電気事業審議会の九七年の中間報告によれば、九九年の電気事業法改正後の独立系発電事業者の潜在発電能力(外部への売電可能な能力)は最大で五二〇〇万キロワットに達すると報告された。これは、二〇〇七年現在の原子炉五五基の全出力五〇〇〇万キロワット弱を上回るものである。原発から撤退しても、なんら日本経済に影響を与えない。
 現在では、太陽光発電、マイクロガスタービン、コンバインドサイクル発電、さらには次世代の燃料電池など、安全で発電効率にすぐれ、クリーンな技術が次々と開発され、実用化される時代である。五一年に九電力が発足した当時は、火力発電の熱を電気に変換するエネルギー効率はわずか一九%だったが、現在の最新鋭ガスコンバインドサイクル発電では五〇%にも達しているのだ。すでに家庭用の燃料電池も、都市ガスを使うタイプを荏原バラード(荏原製作所の子会社)と松下電器産業が製品化して東京ガスが販売に踏み切り、プロパンガスまたは灯油を使うタイプを新日本石油が販売開始した。燃料電池で問題になるコストは、現在原子力に投入されている巨額の国家予算を開発初期の補助金としてまわせば、すぐに実用化できるところまで達している。それをしない政治家と経済産業省が大馬鹿なだけである。