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生物学的文明論

書名:生物学的文明論
著者:本川 達雄
発行所:新潮社
発行年月日:2011/6/20
ページ:251頁
定価:740円+税

「ゾウの時間ねずみの時間」から20年、久々に本川氏の本を見つけました。今の生活は機械に溢れています。技術が作り出した世界の中で生きています。技術の基礎となる数学・物理学的発想(西洋)が広く浸透しています。数学・物理学的発想というのは「量が多いことが豊かである」という発想。これで半世紀以上過ごしてきた。

著者はマナコの研究を通じて、豊かな海をはぐくむサンゴ礁にも、日夜潮だまりで砂を噛むナマコにも、あらゆる生きものには大切な意味がある。技術と便利さを追求する数学・物理学的発想ではなく、生物学的発想で現代社会を見つめなおした発想を紹介している。「量が多い=豊か=幸せ」という現在の状況から「質が良い=豊か=幸せ」という価値観への発想の転換を提案している。

心臓が15億回打つとゾウもねずみも人も死ぬ。そういった意味で人間の寿命は41歳。寿命が80歳に伸びたのはごく最近のこと。縄文人は31歳、江戸時代でも40代、昭和22年になっても50歳。本来人間の寿命は40歳。だって老眼になる。髪が薄くなる。自然界では老いた動物は存在しない。老いた動物に存在は仲間には邪魔。若い動物の生存権を奪ってしまうので、生殖活動が終わったら速やかに消え去るのが良い。

還暦過ぎは人口生命体。品質保証期間が過ぎた生命体。今の長寿は医療の進歩、上下水道などの衛生施設、豊かな食生活、冷暖房、技術の進歩が支えている。縄文時代の必要なエネルギーは食べるだけ年間100kg程度。でも今はその40倍ものエネルギーを使って長寿を保っている。人間が強くなったわけではない。

ならば還暦を過ぎたものの役割とはやっぱり次の世代のためになることをする。自分のため、自分の享楽のためではないなにかをするのがせめても勤めではないかと著者は言う。 絶対的な時間ではなくその種の一生からみた相対時間の中で考えて見ると面白いものが見えてくることをマナコ、珊瑚礁の例を説明しています。なかなか示唆に富む良い本だと思う。文明論なんていうと難しく考えそうですが気楽に読める本だと思います。