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火城

書名:火城
著者:高橋 克彦
発行所:PHP研究所
発行年月日:1992/5/8
ページ:333頁
定価:1408円+税

「葉隠」を家訓とした肥前佐賀藩に「人目もはばからず、手放しで号泣した。」武士にもあるまじき一人の男がいた。その名は本書の主人公佐野常民(佐賀の七賢人といわれた)。幕末の佐賀藩士の五男として生まれ、9歳の時、藩医佐野常徴の養子となった。成績優秀で秀才、長崎、京都、江戸に出て蘭学を極める。

日本の科学の創世紀、しかしある時点で自分の役は、佐賀藩に西洋の先端技術を導入し、負けない藩、いや日本を作ることとの思いを強くして、人材集めに奔走する。集めた人々を独自の蒸気船、蒸気車、反射炉の開発に従事させる。技術者・からくり儀右衛門らの協力も得て夢の実現を目指す。海軍基礎をつくり、日本で一番先進的な佐賀藩の礎を築いた。その後西南戦争の時、戦いで傷ついた人々は敵も味方も区別なく助けないといけないと博愛社を作る。これが日本赤十字社となる。

薩摩、長州、土佐には幕末、明治に政治家となり有名な人が多いが、この佐野のようにあまり目立たないけれど、日本の先行きをじっと見据えて幕末の動乱期を生きた人がいた。江藤新平などと共に忘れ去られた一人かもしれない。