記事一覧

本に出会う

奇跡の教室

書名:奇跡の教室
著者:伊藤 氏貴
発行所:小学館
発行年月日:2010/12/4
ページ:226頁
定価:1300円+ 税

灘中学は昭和3年白鶴(嘉納家)、菊正宗(嘉納家)、桜正宗(山邑家) の3つの酒造会社出資して出来た私立学校、京都亀岡高等女学校校長眞田範衛が初代校長の任について「精力善用」「自他共栄」という校則、自由な校風の学校だった。そこにエチ先生「橋本武」が昭和9年赴任する。(本当は東京高等師範学校を卒業後、金沢の公立中へ赴任する予定が急遽変更)太平洋戦争後、「銀の匙」という本をテキストで3年間、この一冊だけで国語教育を30年間続けてきた。スローリーディングの典型的な教え方。

「国語は全ての教科の基本です。”学ぶ力の背景”なんです」「すぐ役立つことは、すぐ役立たなくなる」をモットーに1ページを2週間かけたり、授業毎に手製のプリントを用意して授業を進める。それも横道、脱線ばかり、七草粥の話では春の七草の採集、粥をつくったり、凧揚げをしたり、脱線が主の授業。一つの本物(一点豪華主義)の本を徹底して読み込んでいけば、まがいものの本を一杯読むよりずっと理解出来る。中学生という頭の柔らかい時期に徹底してほんものの本を教材として国語を自らの意志で徹底的に理解出来る環境を整えていった。そんな橋本武という京都宮津出身の国語の先生を分析しながら紹介している。ちなみに橋本武さんは今年100歳。

すこしでも早く早く、また理解しやすい、分かりやすい、情報は分かればいい等現在の風潮とは全く反対のゆっくりで良いのだ。分からなくて良いのだ。理解出来なくても良い。ゆっくりやっている内に分かってくることがある。その思考過程を「銀の匙」ノートをプリント、授業での書き込み、自分で調べたことで作成する。3年後には生徒独自のノートが出来る。そんな個性豊かな教育。中高6年間毎年同じクラスを担当するので、この軌跡の教室を体験できたのは30年間で5回、1000人程度とのこと。情報氾濫、情報過多の時代ひとつのヒントがここにあるような気がする。
この本は今年の2月の終わりに図書館に予約しておいてようやく出会うことが出来た。


------------------------------
書名:銀の匙
著者:中 勘助
発行所:岩波書店
発行年月日:1999/5/17
ページ:227頁
定価:460円+ 税

いまちょっとベストセラーになっている「奇跡の教室 エチ先生と『銀の匙』の子どもたち 伊藤 氏貴 (著)」に紹介されている。戦後、公立の滑り止めだった灘高でこの文庫本『銀の匙』だけを3年間かけて読むという空前絶後の授業を始めた橋本武という国語の先生、その教科書なき教え方で東大合格日本一に。
そんな話題につられて読んでみました。江戸時代の終わりから明治の虚弱の少年の成長物語。中勘助は少年になりきって少年の目、考え、感想を綴っている。当時夏目漱石が絶賛して、新聞に掲載されたとか。中勘助には残された作品は少ない。その中でも俊逸の作品。和辻哲郎が後書きを書いている。読んでみた感想ですが、特に良いとも思えない。淡々とした少年が成長していく過程が綴られている。また教訓的、説教などもなにもない。叔母に溺愛されながら成長する少年の目で見た世界を描いている。