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かんじき飛脚

書名:かんじき飛脚
著者:山本 一力
発行所:新潮社
発行年月日:2005/10/25
ページ:398頁
定価:1700円+税

時代は田沼意次が失脚して松平定信が老中になった頃、田沼時代とは違って質素倹約が奨励され、世の中はどんどん暗くなっていく。また武家の借金を全て帳消しにする「棄捐令」を執行する。当初は喜んだ武家も2ヶ月も持たない間に札差からは貸し渋りにあいニッチもさっちも行かなくなってしまう。そんなとき加賀百万石の前田家に老中松平定信から正月明けに夫人同伴の宴を催すとの通達があった。

それも前田家と土佐藩山内家の2家に対して。これは極めて異例のこと。どちらも夫人が病に罹り体調不全のことを幕府に届けていなかった。前田家ではこの宴に参加するためには夫人の病を何とかしないといけない。唯一の解決策は加賀藩内で作られている秘中の秘の万能薬”密丸”を早急に取り寄せることであった。このためには加賀の”三度飛脚”(月三度加賀と江戸の間を行き来している)達を使って加賀まで取りに行かせることであった。

加賀藩存亡にかかわる窮地を救うのは江戸班8名加賀班8名計16名の飛脚の足にかかっていた。夏場では加賀と江戸の間145里(157km)を5日、冬場で7日で行き来する。道中には親不知子不知や碓氷峠の難所が控え、平坦な道では1日に約80kmを約15kgの荷物を背負って行く。折悪しくも厳冬期を向かえ、親知らず子知らずの大波や碓氷峠の大雪が彼らの行く手を阻もうとする。そんな中を加賀へ向かう8名、江戸に戻る8名。またこれを阻止しようとする公儀隠密御庭番達との戦い。物語の展開が面白い。

江戸の人情、心意気、義などが得意な作者、また経済感覚も優れている(一種ビジネス書的な感覚も)、それと宿場宿場の食事、加賀から江戸までの道中の食事、料理もなかなか凝っている。現代ならばウルトラマラソン選手達の体調管理、食事管理にも通じる気の使いよう。1kmを6分程度の速さで1日80kmを走る飛脚達を描いている。今まで以上に面白い作品だと思う。