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テレビの大罪

書名:テレビの大罪
著者:和田 秀樹
発行所:新潮社
発行年月日:2010/8/20
ページ:207頁
定価:700円+税

「犬が人に噛みついても」ニュースにはならない。「人が犬に噛みついた」これがニュースになる。まれに起こることがニュースとして取り上げられている。そんなミクロなことをすぐに普遍的なことのように拡大してしまうのがマスコミ。その中で特にテレビは影響力が強すぎる。新聞、週刊誌だとまだじっくり考えて判断する暇もあるが、テレビだとそんな時間もない。流し放しの情報に何の判断もなしに鵜呑みにしてしまう危険が潜んでいる。

高齢者だとテレビのない時代も経験しているから、「テレビを見てばかりいるとバカになる」と言って育った時代がある。したがって情報判断も鵜呑みにする人は少ないと思う。しかし国民の大半以上が生まれた時から「テレビに子守をして貰って」育った時代になってしまった。特異的な現象を社会全体のことと取り違えることを平気で行っている。
そんなテレビの大罪を歯に衣を着せずに勇気のある告発を行っているのがこの書です。

テレビは「映像」と「時間的制約」のために、当然であるべき認知的複雑性(こういう見方もありば、こんな違った見方もあるということ)で放送すると分からなくなるから、白か黒かをはっきりさせる二分割思考をしてしまう。またコメンテーター、評論家もそんな単純な人間を選んでしまう。また専門家(人とは変わった提案、論などを述べる)と呼ばれる人を使って白か黒かを結論づけてしまう。また人は誰が言うかということ信用する性質がある。(属人思考)これを上手く利用している。「盗人にも三分の理」は絶対出てこない。いちいち納得することが書かれている。一読の価値ある本だと思う。

1.「ウエスト58cm幻想」の大罪
   常に太っていると思ってしまう。過度なダイエットによる拒食症での死亡や健康障害などの増加。
2.「正義」とは被害者と一緒に騒ぐことではない
  「被害者が神様」が必要以上に叫んでいる。被害者に責任あることも一杯ある
3.「命を大切に」報道が医療を潰す
   医療事故を過度に報道する。病気・怪我をした患者に因がある医者はそれを治そうとしてミスする場合がある。
4.元ヤンキーに教育を語らせる愚
  「ごくせん」などにみられる不良礼賛、元不良でも弁護士なったりすることを礼賛する。でもそんな人はまれ。真面目勉強する、努力する価値観の否定
5.画面の中に「地方」は存在しない
  テレビの報道は東京目線ばかり、地方独自の番組でも東京の業者が作る。
6.自殺報道が自殺をつくる
  興味本位の自殺報道が新たな自殺者を生み出す。犯罪報道が違う犯罪を生んでいる
7.高齢者は日本に存在しないという姿勢
  「水戸黄門」を喜ぶ世代はもういなくなっている。ビートルズ世代も高齢者になっている。若者向けの低レベルな内容の番組が多すぎる。番組の狙う世代はどんどん変わっていることを意識していない。
8.テレビを精神分析する
白か黒か、善か悪かといった二分割思考が蔓延っている。世の中そんなに簡単ではない。

本書カバーより
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教育を論じる元不良、政治を語るタレント、自殺をあおるキャスター。いったい何サマだ?
あなたはテレビに殺される。運よく命まで奪われなくとも、見れば見るほど心身の健康と知性が損なわれること間違いなし。「『命を大切に』報道が医療を潰す」「元ヤンキーに教育を語らせる愚」「自殺報道が自殺をつくる」――。精神科医として、教育関係者として、父親としての視点から、テレビが与える甚大な損害について縦横に考察。蔓延する「テレビ的思考」を精神分析してみれば、すべての元凶が見えてきた!