書名:時空浴 熊野高野から
著者:神坂 次郎
発行所:NHK出版
発行年月日:2003/9/25
ページ:269頁
定価:1700円+税
著者は和歌山県生まれ、土木技師として建設業に身をおくこと24年、和歌山県の各地を転々と旅をする。熊野古道を中心として和歌山各地を訪れて旅の原点を探る。九十九王子を巡る旅、平安の昔から多くの人々が訪れた熊野三山、時空を超えた軌跡を辿る。そんなエッセー集。読んでいると一緒に旅をしている錯覚にとらわれる。和歌山は神話の時代から神々の国、神々に見せられた大勢の庶民たちが「蟻の熊野詣」と言われるくらい歩いた古熊野道。そこには安珍清姫の伝説があったり、有馬皇子の悲劇があったり、古代の人々の生きた証がある。
本書より
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取材の旅に発つとき、時空浴という言葉を思い浮かべることがある。日光浴とか海水浴とか森林浴などという語があるように、歴史の時間と空間の中に自分を投げ込み、漂わせてみる。
そんな思いで、作品の中に登場する人物の誰彼が通りすぎた遠い時間と歴史の風塵のなかを独り歩いてみる。ゆっくりと歩いてみる。おなじところを幾度も、ときには、異国での独り旅につまずき道中に行き暮れ、わが登場人物を相手に、
「所詮、旅というのはトラブルだからな。あんたの時はどうだった?」などとぼやきながら、歩きつづけていく。
だがそんなあいだにも文献渉猟の机上の取材では判らなかったものが、ふ、と見えてきたりする。
こうして摺りこまれた旅での発見が、なにものにもかえがたい、時空浴の愉しさである。