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天下商人 大岡越前と三井一族

書名:天下商人 大岡越前と三井一族
著者:高任 和夫
発行所:講談社
発行年月日:2010/10/7
ページ:373頁
定価:1800円+税

大岡越前守忠相と、2代目高平をはじめとする三井家の人々が主人公となり、それぞれの立場からせめぎ合いを続ける様子が描かれている。 「月華の銀橋 勘定奉行と御用儒者」「青雲の梯 老中と狂歌師」そして 「天下商人 大岡越前と三井一族」の3部作です。なかなか読み応えのある本です。

大岡忠相越前守は江戸町奉行、時代劇では大岡裁きのイメージですが東京都知事+経済産業大臣+国土交通大臣その他と読み替えると理解しやすいかもしれない。三井高平を三井財閥の総帥、徳川吉宗を財政再建路線の首相と置いてみるのもいいかも。

幕府の体制が米を基盤とした経済が貨幣経済に変わり、米経済が立ち行かなくなった。武士の給与は米で支払われるため、新田開発、品種改良等で増産すればするほど米価が下がって武士の生活は困窮する。
江戸が金、上方が銀という使用通貨の違いにより、為替レートの変動で江戸と上方の景気が大きく影響を受ける

綱吉時代は荻原重秀の通貨の質を落とす改鋳という形で量的緩和を行っていたが、その後吉宗は通貨の質を上げる政策をとり、結果的に金融引き締めと同様の効果を発揮してひどいデフレ状態になってしまう。給与(米価)は下がる。でも諸物価は上がる。というアンバラスが発生した。忠相は吉宗から米価を上げるよう命じられ、物価や為替レートの統制を行い。市場を操作しようとするが市場原理に逆らう政策では商人たちの抵抗も強くなかなかうまくいかない。

吉宗の亨保の改革は質素倹約、金融引き締め等で当初は成功したかに見えたが結果的にはデフレを押さえることができなかった。そして最後の方で荻原重秀の通貨の質を落とす改鋳という通貨供給量を拡大するという政策をとらざるを得なくなった。そんな江戸時代の経済施策を細かく盛り込んだ経済小説です。

三井は幕府はいずれ潰れるだろうが三井は生き残る。でも幕府がつぶれたあとのことが読めないのでとりあえずは延命させておくという凄い、余裕、商人の魂を見る思いがする。