書名:月華の銀橋
勘定奉行と御用儒者
著者:高任 和夫
発行所:講談社
発行年月日:2009/11/5
ページ:413頁
定価:1800円+税
徳川綱吉の時代。側用人柳沢吉保、勘定奉行荻原重秀、新井白石、河村瑞軒らが登場人物。徳川時代も5代綱吉の時代になると徳川家康が備蓄していた御金蔵も底をついてきた。また金鉱山、銀鉱山からの産出も大幅に減ってきた。そんな時代に勘定奉行に取り立てられた荻原重秀。検地の見直し、代官の総入れ替え、鉱山への再投資などいろいろと手を打って経済の安定を図ろうと一人奮闘する。その理解者は柳沢吉保、そして綱吉のみ。そんな荻原重秀の見習うべき師として河村瑞軒が、相談にのる。その瑞軒を通じて新井白石と繋がってくる。河村瑞軒は明暦の大火の時に材木を手当てして大儲けをした商人。
その後東北から江戸に回航できる航路を開発した。また大阪の淀川の改修工事、魚沼の銀山開発などを手がけている。綱吉のやったことは下級の藩士でも能力のあるものを登用したこと。その典型的な例が柳沢吉保、荻原重秀。荻原重秀は大判、小判の金の比率を変えて、貨幣の改鋳を行った。このとき資金需要は旺盛なのに貨幣不足が顕著になっていた。本来の比率で金淹れるだけ確保出来ないという状態だった。後世、貨幣の改鋳は「悪貨は良貨を駆逐する」と悪性政策の見本のようにいわれているが、現在の紙幣を見れば判るように紙切れに過ぎないものが信用されると、十分通用している。したがって改鋳した貨幣でも市場に出回ることで景気浮揚策となる。このことを荻原重秀は知っていた。
しかしその徳川家宣の代になって新井白石などは改鋳はとんでもないこと。儒者特有の頑固さで書物などに残したので荻原重秀、柳沢吉保などは悪人の代表のように思われてしまっている感がある。この小説を読むと綱吉の時代の経済のことをよく分析していると思う。荻原重秀などはもう一度再評価しても良い人物なのかもしれない。