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いっしん虎徹

書名:いっしん虎徹
著者:山本 兼一
発行所:文藝春秋
発行年月日:2007/4/25
ページ:444頁
定価:1900円+税

「虎徹」というと新撰組の近藤勇が佩刀していた刀として広く知られています。「今宵の虎徹はよく斬れる」又「血に飢えている」という台詞が出て来る。「虎徹」は贋作の多い刀ともいわれている。

越前で甲冑の名工として知られた長曽祢興里(虎徹)は、甲冑の需要が減って暮らしが成り立たなくなったため江戸に出て刀鍛冶となる決意をする。その決意を胸に出雲のたたら場を訪れる。鍛冶の基本は鉄を知ること。出雲でたたら場を訪れ、どのようにして鋼がどのようにして作られていくのか?どんな工夫、苦労をしていくのかを実際の体験を交えながら習得していく。

鉄のことなど十分分かっていたと自負していた興里はここでより良き鋼を生み出すために張り巡らされた創意工夫の数々に感嘆し、己の無知に打ちのめされてしまう。また逆に刀に掛ける闘志を新たにして重病の妻を伴い江戸に出る。鉄と共に生きた伝説の刀鍛冶虎徹の情熱と創意工夫が甦る。一振りの刀に命をかけた刀鍛冶の波乱の半生を描いている。作者の迫力は刀製作の工程のみならず、砂鉄から鋼を精製する「たたら吹き」にまで及ぶ、専門的な説明と、その緻密な表現、描写。ページの半分以上が鉄作りにさかれており、驚嘆するとともに作者のこだわりの深さが感じられます。また一心に鉄撃つ虎鉄を支える病気持ちの妻ゆきとのやり取りがこの熱い熱い物語に一つの清凉感を出しています