書名:椿と花水木 万次郎の生涯
津本陽歴史長編全集18
著者:津本 陽
発行所:角川書店
発行年月日:1999/5/28
ページ:500頁
定価:5800円+税
ジョン万次郎、中浜万次郎と幕末の漂流者のことはある程度知っていたけれど、知らないことが一杯でした。この本は土佐国中ノ浜村の貧家に生まれた万次郎が、13歳のとき、初めて鰹漁の為に乗り込んだ漁船が遭難、黒潮に流されて太平洋の無人島に漂着する。ここで食料もなく、水もない言語に絶する暮らし、百数十日後、アメリカの捕鯨船に救われて、太平洋各地を鯨漁船員として従事する。そして2年後捕鯨船の船長ホイットフィールドの世話でアメリカ本国で学校に行く。英語、数学、測量、航海術、造船技術様々な技術・知識を身に付けて捕鯨船の船員として太平洋に乗り出す。このときスクールの同級生と結婚した。
3年捕鯨船では副船長&一等航海士となって、自信を持って帰ってみると最愛の妻は船から落ちて行方不明。日本への望郷が忘れられず、罪に問われて死ぬかもしれない日本に帰ることを決意し、そのための資金稼ぎにカリフォルニアの金鉱へいく。アメリカばかりではなく世界中から集まった金の亡者達とともに金を探す。1300ドルほどの金を見つけたところで日本に帰る準備をする。香港へ行く貿易船に乗せて貰って途中琉球に上陸する。
晴れて十数年ぶりに降り立った故国は黒船来航を端緒とした未曾有の国難に面していた。日本にいたときには読み書きも出来ない。英語は出来るが、日本語は出来ない。それから人一倍努力して日本語、漢字、話し言葉を覚える。そして開国を控えた幕府をかげて支えることになる。
ひとつひとつの出来事を見ていくとどうしてこの人は生きていられたのか?これも運が良かった。数奇な運命か。何の学問もないひとりの若者が、アメリカ、世界の海、を回って知見を広めている。当時の日本人で一番世界を知っていた人になっていた。幕末のペリーとの交渉でも陰で、アメリカの意図を、咸臨丸でアメリカへこのときも陰で航海士の役割を、しかし、当時の日本の制度では勝海舟が艦長(アメリカにつくまで船酔いで艦長室に籠もりっきり)
万次郎の数奇な波瀾万丈の人生を描いている。
明治になって晩年アメリカの記者にあった万次郎は英語も忘れて意気消沈していたという。英語で物事を考え。アメリカの習慣を身に付けた少年は晩年、日本語、日本の習慣に戸惑いながらも覚えて、そしてふっと思い返すと自分のふるさと(心のふるさと)はどこか?と悩んでいたのでは。岡倉天心も幼少期横浜で日本語、漢語の勉強より先に英語を覚えてしまった。著作物になると英語。日本語はかなり劣っていたとか。この人もこころのふるさとはどこだったのか?
やっぱり天は二物を与えずといったところか?万次郎にしても自分で選んで進んだ道でなかった。運命に翻弄された人生だったのでは?