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命もいらず名もいらず

書名:命もいらず名もいらず(上)幕末篇
著者:山本 兼一
発行所:NHK出版
発行年月日:2010/3/25
ページ:360頁
定価:1800円+税

書名:命もいらず名もいらず(下)明治篇
著者:山本 兼一
発行所:NHK出版
発行年月日:2010/3/25
ページ:427頁
定価:1900円+税

西郷南洲遺訓には「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、始末に困るものなり。この始末に困る人ならでは、艱難(かんなん)を共にして国家の大業は成し得られぬなり。」(西郷隆盛)とある。それを地でいったのが山岡鉄舟です。旗本の四男として生まれた小野鉄太郎高歩、のちの山岡鉄舟は新影流、北辰一刀流などを学び、めきめきと剣術の腕を上げる。幕末の時代がうねる中、幕臣として国家の行く末を意識し出す、単身西郷隆盛と面談し、江戸城無血開城の基本合意を取り付ける。剣・禅・書の達人として知られた鉄舟は、人から頼まれれば断らずに書いたので各地で鉄舟の書が散見される。

一説には生涯に100万枚書したとも言われています。幕末から明治と言う時代をまっすぐにストレートに生きた一人の壮絶な人生を描く。高橋泥舟、勝海舟と並んで・幕末の三舟と呼ばれる鉄舟波瀾万丈の人生を作者はオーソドックスな歴史小説スタイルで愚直に描いている。山岡鉄舟という主人公を描くにはこのスタイルが一番良いのかも知れない。ただその場その場で全力をつくす一直線な人物、鉄舟をいかんなく描いている。感動溢れる物語です。今の世には現れてこない人物かも知れない。政治の世界をみても、実業界もみても「命は欲しい、名も欲しい、官位も金も欲しい、利にさとい、ずる賢い」そんな人物ばかり、そんな人でないと出世できない。リーダーになれない時代。どこかで間違ってしまった。
この物語の中でも、飛騨高山から鉄舟が江戸に出て、剣術の道場で周りの人々の動きに合わせて自分を忘れて、目立たないいけない。その為に強くならないと、自分を認めさせないと焦りまくる時期。そして反省して自分を取り戻していくところなど、深く考えさせれた。江戸という街の人の多い、競争の多い中では、鉄舟のような人でも自分を失って、右往左往してしまった。人に酔うと自分を冷静に保つことは難しい。でもそれに気づくのもまた大変。なかなか面白い作品だと思う。