書名:科学技術のリスク
原子力・電磁波・化学物質・高速交通
著者:H.W. ルイス (著), H.W. Lewis
翻訳:宮永 一郎
発行所:昭和堂
発行年月日:1997/4/25
ページ:299頁
定価:2200円+税
1990年に米国で発行された「"Technological Risk"H.W. Lewis アメリカ物理学協会科学著作賞受賞」を翻訳したのが本書です。1部では科学技術とリスクの一般的な知識(生活とリスク、リスク評価、管理)などの触れています。2部は毒性化学物質、化学発がん、高速道路安全性などの各論、3部はリスクを理解するための統計、確率の知識がまとめられています。
[目次]
1部 一般論(生活のリスク
リスクの測定
リスクの認知 ほか)
2部 各論(毒性化学物質
化学発がん
高速道路安全性 ほか)
3部 結び(これだけで十分-統計と確率
エピローグ-そもそもいったいどういうことか?)
統計と確率についての唯一の教訓はデータを使って仮定を検証しようとしているのか、データを予測するために仮定を使っているのか、分析なのか予測なのか、しっかり気をつけていることが賢明だと言う。リスクを抱える科学技術にも恩恵はある。危険だからといって車を取りあげようとはしない。リスクを分類、整理し、これに関連する基本的事項を全体的な立場から詳しく考察して、我々の生活にどう関係しているかということを説明してる。
アメリカでは22%の人ががんで死亡している。それに比べて放射能被害による犠牲者は十分少ない。汚染による被害などとリスクの大きさを全体的に並べて分析しないと恐れだけになってしまう。というの著者の一つの主張だと思う。
そしてこの考え方の基礎に原発推進のための論拠として普及してきたことに疑問を感じる。原発は安全だという神話の推進者のひとりとなっている。
でもじっくり読んで見ると、不確定性(わからない)、統計、確率など安全性、信頼性に拘わるところなどは厳しく注意して使うべきと警告している。何も指標がえられない不確定性の世界を鳥瞰するとときのツールとしての役割を強調しているように思う。でも著者の真意を読みとらずに、別の方向へ導くためのバイブルとして使った人がいたのかも知れない。この本は科学の本というよりも哲学書だと思う。科学技術とリスクについて深く考えさせられる。自分でじっくり考えるには参考になる本だと思う。
本書より
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恐れとリスクとは別物である。われわれの中のある人たちが大変怖れるもの・・・飲料水のなかからの毒物、空中の放射線、食物中の殺虫剤、はほとんど現実のリスクにならないが、一方われわれが怖がらないもの・・・自動車の運転、飲酒、そして喫煙は毎年数十万人の命を奪っている。
科学において誤りは詐欺ではない。・・・ニューヨークタイムズ1989
宮永一郎氏が去る 2009 年11月5日逝去された。
http://www.c-technol.co.jp/pdf/399FBN.pdf