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原発安全革命

書名:「原発」革命
著者:古川 和男
発行所:文藝春秋
発行年月日:2001/8/20
ページ:233頁
定価:700円+税

書名:原発安全革命
著者:古川 和男
発行所:文藝春秋
発行年月日:2011/5/20
ページ:233頁
定価:800円+税
(「原発」革命の増補新版)

「核エネルギーについての最終的決定は科学者が下すのではなく、我々の社会のあらゆる主要な社会問題を決定する立場にある人々によってなされなばならない」リリエンソール

これからのエネルギー需要にこたえるためには3つのポイントがある。ひとつは安全、経済性、増大するエネルギー需要に応えられること。その3つのポイントに充分答えることができる「トリウム溶融塩炉」(トリウム溶融塩核エネルギー協働システム)を50年に渡って研究を続けてきた著者が原発の歴史、方式を懇切丁寧にわかり易く説明している。
著者の主張のポイントは現在多くのところで使われている原発(軽水炉)は原理的に問題を抱えている。1950年代までは原子力の平和利用ということで、自由に原発の研究が進められていたが、東西冷戦時代とともに核兵器に使える原子力研究と言うことで、ウラン固形燃料、プルトニウムの製造できる原発の開発が主流になってしまった。

著者は「プルトニウム、天然ウランの使用禁止!核兵器廃絶」掲げる。固形燃料を「化学反応装置」である原発に使うのは原理的に間違っている。氏の提案するトリウム溶融塩炉は液体燃料(トリウム溶融塩)を使用する。プルトニウムは殆ど発生しない。核兵器の原料にはならない。核兵器への転用はできないという欠点がある。電力の出力負荷が変動しても柔軟に対応出来る。小型化も可能で、需要地での発電も可能。また今までの原発で発生させてきた核廃棄物の最燃焼をして処理が可能。という夢のようなシステムを提案している。福島第一原発事故後に出版された増補新版のはじめには「トリウム溶融塩炉」であれば最悪時(全電源喪失)したとしても今回のような水素爆発、放射能拡散は原理的に起こさないと言い切っている。

このシステムは1950年代にアメリカで試験用をとして稼働した実績がある。しかしこの技術を実用化させるには20年は掛かると言っている。この新しい(実は50年以上前からある)システムは機知の技術、成熟した技術を使って安全に経済的に今後のエネルギー需要増大に応えることが出来ると言っている。いままで知らなかった原発の仕組み、核分裂の仕組み、化学方程式の基礎などをやさしく、わかり易く買いてある。既存の原子力に関する本とは違った種類の本だと思う。ただこのトリウム溶融塩炉の評価についてはよく分からない。少なくとも原題の原発(大量熱発生装置)よりは評価できるのかなとも思う。2冊とも読んだが「原発安全革命」の1冊に著者の言いたいことは集約されていると思う。

残念ながら著者は昨年12月14日に亡くなってしまった。最後に氏の恩師西堀栄三郎の技士道を引用されている。この技術に携わる者=人と置き換えと人間としてあるべき姿になると思う。また「七つの大罪」というガンジーの言葉を思い出してしまった。著者の最後の日本、世界に向けて遺言ではないかと思う。

◆ 技士道(本文より)
技士道は武士道、騎士道に対応して、技術者としてのあるべき姿、行動規範、綱領を西堀先生がまとめられたもので、次の15カ条を掲げている。
一 技術に携わる者は、「大自然」の法則に背いては何もできないことを認識する。
二 技術に携わる者は、感謝して自然の恵みを受ける。
三 技術に携わる者は、人倫に背く目的には毅然とした態度で臨み、いかなることがあっても屈してはならない。
四 技術に携わる者は、「良心」の養育に努める。
五 技術に携わる者は、常に顧客指向であらねばならない。
六 技術に携わる者は、常に注意深く、微かな異変、差異をも見逃さない。
七 技術に携わる者は、創造性、とくに独創性を尊び、科学・技術の全分野に注目する。
八 技術に携わる者は、論理的、唯物論的になりやすい傾向を戒め、精神的向上に励む。
九 技術に携わる者は、「仁」の精神で、他の技術に携わる者を尊重して、相互援助する。
十 技術に携わる者は、強い「仕事愛」をもって、骨身を惜しまず、取り越し苦労をせず、困難を克服することを喜びとする。
十一 技術に携わる者は、責任転嫁を許さない。
十二 技術に携わる者は、企業の発展において技術がいかに大切であるかを認識し、経済への影響を考える。
十三 技術に携わる者は、失敗を恐れず、常に楽観的見地で未来を考える。
十四 技術に携わる者は、技術の結果が未来社会や子々孫々にいかに影響を及ぼすか、公害、安全、資源などから洞察、予見する。
十五 技術に携わる者は、勇気をもち、常に新しい技術の開発に精進する。

七つの大罪というガンジーの言葉
一、原則なき政治
二、道徳なき商業
三、労働なき富
四、人格なき教育
五、人間性なき科学
六、良心なき快楽
七、犠牲なき信仰