書名:流沙(上)
著者:井上 靖
発行所:毎日新聞社
発行年月日:1980/6/15
ページ:334頁
定価:1500円
書名:流沙(下)
著者:井上 靖
発行所:毎日新聞社
発行年月日:1980/6/15
ページ:342頁
定価:1500円
久々に井上靖の作品。井上の作品の中では長編に入る作品。物語はピアニストでパリで勉強を続けている章子、そして「クシャン朝(クシャーナ朝)の研究」を生涯のテーマとして中東地方を発掘にいそしむ考古学者左門東平が周りの人々の世話で結婚式を挙げるところから始まる。そしてイスタンブールからテヘランに新婚旅行に旅立つ。4日間は和気藹々のカップル。章子に掛かってきたパリの友人からの電話。旅行を打ち切ってパリのピアノ演奏会に行くと突然告げる。そして二人の間は急速に覚めて険悪な関係となってしまう。そしてそのまま別居生活。その二人生活を描いている。
井上靖の作品はオリエンタルな夢があり、砂漠ののどかな風景、遺跡あり、美術館巡り、彫刻、絵画などふんだんに出て来る。今回は京都奈良の仏像、絵巻などもそれぞれ氏なりの見方を登場人物に託して語ってくれる。京都の高山寺の華厳経絵巻から語る章子の人生観、結婚観、愛についての話なんか中々面白い。
文章の中に余裕があり、教養が溢れている名文が続くのでついつい読み続けてしまう。そして読後の余韻が漂ってくる作品です。そうなんです、戦前生まれの作家はやっぱり名文家が多かった。文章だけで人を引きつけ、感動させるそんなプロがいたのですね。最近戦後生まれの作家の本を読むことが多いので、何となく感じていたものが、この本を読むことによって思い起こされてきた。これからはちょっと古い作品も読んでみようかな?