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原発危機と東大話法

書名:原発危機と東大話法
   傍観者の論理・欺瞞の言語
著者:安富 歩
発行所:明石書店
発行年月日:2012/1/15
ページ:270頁
定価:1600円+税

現役の東京大学教授が見出した「東大話法」を駆使して原発事故の中でどんな発言、報道がなされてきたか?責任を取らない人々の行動などを分析しています。そしてアンチテーゼとしてその人が本物かどうかを見つけるための手法として「東大話法」が有効な手段といことを証明しています。近年にない面白い本です。この「東大話法」というのは東京大学の学生、教授、教員、出身者ということではなく象徴としての言葉と使っています。「東大話法」をうまく使いこなす人が今の世の中で勝ち組として君臨しているということを言っています。

名を正す(昔孔子が衛の政治をするとするとまず欺瞞的な名を正すと言った)
・彼らは「危険」を「安全」と言い換えます
・彼らは「不安」を「安心」と言い換えます
・彼らは「隠蔽」を「保安」と言い換えます
・彼らは「事故」を「事象」と言い換えます
・彼らは「長期的には悪影響がある」を「直ちに悪影響はない」と言い換えます
・彼らは「無責任」を「責任」と言い換えます

公式表現      正しい表現
原子炉の高経年化→原子炉の老朽化
原子力安全委員会→原子力危険性審査会
プルサーマル→プルトニウム燃焼
MOX燃料→プルトニウム・ウラン混合酸化物燃料
使用済み燃料→使用済み核燃料
高レベル廃棄物→高レベル放射性廃棄物 

など公式表現を疑って自分の判る言葉に直してみるのも偽物学者を見破る方法かも知れません。ある時期までは科学と社会について啓蒙的な学者で立派な人がいたように思うのですが、最近ではなかなかいない。役に立つ研究しかしなくなってしまった。この本に懐かしい武谷三男の「がまん量」というのが出て来る。40年ほど前に武谷三男の著作を一生懸命読んだことを思い出す。当時、原子力の平和利用に反対していた学者です。原発推進派、原発反対派両派のバイブルになった学者。原子力を学問として立派な業績を残していた武谷三男などは原子力発電には参加しなかった。また大部分の人が参加しなかった。したがって三文学者を集めて原子力発電を推進してきたという困った過去がある。こういうことを知っていれば今、保安院、原子力安全委員会のメンバーの対応を納得が出来る。武谷三男、高木仁三郎、小出裕章の系統はかろうじて残っていたが、これから廃炉などになってくると。その道には人材がいない。これは大きな問題ですね。
この本は難しい話を非常にわかり易く書かれています。中学生にも十分理解出来る内容だと思います。是非読んで欲しい本です。なぜ責任を取らないのか?「立場」がキーワード、これを「役」の歴史から説き起こしています。興味を引かれます。第二次世界大戦でも敗戦を終戦、など欺瞞の言葉を作って国民を一気に引っ張っていった。今回も危険を安全と言って引っ張っていった。長期的には悪影響があるのに直ちに悪影響はないといって原発事故、放射能問題からみんなの関心を反らせようとしている。「東大話法」を自分の物差しとして考える術とすると今までと違った世界が見えてくるのではないかと思います。

原発危機と東大話法
目次
 はじめに
 東大話法一覧

第1章 事実からの逃走
 燃焼と核反応と
 魔法のヤカン
 名を正す
 学者による欺瞞の蔓延――経済学の場合
 名を正した学者の系譜
 武谷三男の「がまん量」
 高木仁三郎・市民科学者
 小出裕章と「熊取六人組」
 玄海原発プルサーマル計画をめぐる詭弁との闘い

第2章 香山リカ氏の「小出現象」論
 香山氏の記事の出現
 原発をネットで論じている人々の像
 ニートや引きこもりの「神」
 仮面ライダー・小出裕章
 小出裕章=「ネオむぎ茶」説
 「原発問題=新世紀エヴァンゲリオン」説
 インターネットの意味
 関所資本主義の終焉
 お詫びのフリ
 真理の探求へ
 真理の探求からの逃避
 香山氏はなぜこの文章を書いてしまったのか

第3章 「東大文化」と「東大話法」
 不誠実・バランス感覚・高速事務処理能力
 東大関係者の「東大話法」
 東大工学部の『震災後の工学は何をめざすのか』
 東大原子力の「我が国は」思想
 工学研究の「計画立案」
 東大原子力の中期計画
 東大原子力の野望
 東大原子力の長期計画
 東大原子力文書の東大話法規則による解釈
 傍観者
 池田信夫氏の原発についての見解
 池田信夫氏の「東大話法」
 鈴木篤之氏の「東大話法」
 「東大話法」の一般性

第4章 「役」と「立場」の日本社会
 「東大話法」を見抜くことの意味
 「立場」の歴史
 夏目漱石の「立場」
 沖縄戦死者の「立場」
 日本版プラトニズムとしての「立場」
 職→役→立場
 原子力御用学者の「役」と「立場」
 天下りのための原子力
 福島の人々が逃げない理由

第5章 不条理から解き放たれるために
 原発に反対する人がオカルトに惹かれる理由
 槌田敦のエントロピー論
 化石燃料と原子力
 地球温暖化
 出してはならないもの
 人間活動の生態系
 人間の破壊
 熱力学第二法則と人類の未来
 原子力のオカルト性
 「日本ブランド」の回復へ

 あとがき
「東大話法規則一覧」
規則1 自分の信念ではなく、自分の立場に合わせた思考を採用する。
規則2 自分の立場の都合のよいように相手の話を解釈する。
規則3 都合の悪いことは無視し、都合のよいことだけ返事をする。
規則4 都合のよいことがない場合には、関係のない話をしてお茶を濁す。
規則5 どんなにいい加減でつじつまの合わないことでも自信満々で話す。
規則6 自分の問題を隠すために、同種の問題を持つ人を、力いっぱい批判する。
規則7 その場で自分が立派な人だと思われることを言う。
規則8 自分を傍観者と見なし、発言者を分類してレッテル貼りし、実体化して属性を勝手に設定し、解説する。
規則9 「誤解を恐れずに言えば」と言って、嘘をつく。
規則10 スケープゴートを侮蔑することで、読者・聞き手を恫喝し、迎合的な態度を取らせる。
規則11 相手の知識が自分より低いと見たら、なりふり構わず、自信満々で難しそうな概念を持ち出す。
規則12 自分の議論を「公平」だと無根拠に断言する。
規則13 自分の立場に沿って、都合のよい話を集める。
規則14 羊頭狗肉。
規則15 わけのわからない見せかけの自己批判によって、誠実さを演出する。
規則16 わけのわからない理屈を使って、相手をケムに巻き、自分の主張を正当化する。
規則17 ああでもない、こうでもない、と自分がいろいろ知っていることを並べて、賢いところを見せる。
規則18 ああでもない、こうでもない、と引っ張っておいて、自分の言いたいところに突然落とす。
規則19 全体のバランスを常に考えて発言せよ。
規則20 「もし○○であるとしたら、お詫びします」と言って、謝罪したフリで切り抜ける。