書名:災害論 安全性工学への疑問
著者:加藤 尚武
発行所:世界思想社
発行年月日:2011/11/10
ページ:197頁
定価:1800円+税
この本は福島第一原発事故の後に書かれた本です。ちょっと話題になっていたので知っているかも知れませんが。著者は科学者でもなく哲学者です。確率論による安全性に疑問を呈して安全性の考え方を哲学、思想としてまとめている本です。自動車、家電のような大量生産で生まれる製品の故障率と原発のような世界に一つ、又はほんの少しの製品の故障率を同じように考えることの危険性を指摘している。1万回に1回故障する発電機を二台(現用、予備)を設置したから単純に1億回に1回の故障だから安全だという今までの安全の考え方は間違っていると指摘している。197ページの短い本ですが、中身は非常に濃い、考えさせられるものが一杯詰まっている。
科学は確率論でさも判った。推定できる。予測できると考えてきた。その考え方は間違っている。サイコロを1万回投げると1/6の確率で1が出る。というのと1000年に1回マグニチュード9以上の地震が起きる。原発の重大事故が起こるというのは考え方を変えないといけないという。原発の重大事故というのは今回の例でも判るように理屈で説明できない事象が一杯出て来る。放射能は危険という人、たいしたことはないという人、実際の被害、風評被害、瓦礫の放射能、居住地域の放棄、移住、除染と問題が一杯出てきた。これも事故が起きることによって発生した問題。それを一言で政府を信じろ、科学的には規制値以下だから安全ですと言っても誰も信用しない。それなりに専門家と呼ばれて一応エリート科学者達が決めて発言している。バカな国民は信用すれば良いのだ。というロジックは許されない時代になっている。また世界に少しでも安全だと言いたいがために、政治的な発言、発表。冷温停止状態、除染をすれば元に戻れる。瓦礫は安全だと言えば言うほど信用されない。
そんな問題が次々と出て来る。それも原発の事故という特殊性にあると言える。簡単にいうと自動車は危険なもので人を殺すことがある。1年に5000人ほど死んでいる。でもメリットも一杯ある。このデメリット(1年5000人の死者)は我慢の出来る範囲ということで社会に受け入れられている。
国破れて山河ありと言われた。戦争で敗れても山河はある。でも原発事故ではその山河もなくなる。またもとに戻るまで300年、10万年掛かると言われている。そんなデメリット、負の遺産をおってでも原発のメリットを選択するのか?今問われている。また高濃度の放射線廃棄物の処理は全く目処がたっていない。人の一生よりながいスパン(地球の年齢で考えないといけないくらいのスパン)を今を生きている人間が考えることが出来るのか?出来るわけがない。科学的に放射線廃棄を無毒に出来る確かな方法を手に入れるまでは何とも言えない。今は何の手もないので仕方なく自然に減衰するのを待つだけ。そんなものを確率論で考えることすらおかしい。明日かも知れない、1000年後かも知れない。そんな時は明日起きたらと考えるが普通の考え方ではないのか?それを1000年後を考えて隕石が落ちてくるより安全だ(そう思いたい)として来たのではないか?
ちょっと難しい本ですが、じっくりと読むと含蓄のある内容が一杯詰まっています。新聞、テレビ、ニュースでは得られない発想の転換ができるような気がします。