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嗚呼江戸城

書名:柴田錬三郎選集14
  嗚呼江戸城
著者:柴田錬三郎
発行所:集英社
発行日:1990/4/25
定価:3107円+税

 この物語は江戸城を主人公に、江戸の街、城を描くという作者の当初の構想とは書いていくうちに段々変わってきたと小説の中で作者が断っている珍しい部分もある小説です。徳川初期江戸の街、江戸城を大名を総動員して建設した時代。また改易等で大名の取りつぶし、浪人の大量発生、戦国時代には有能な武士も失業時代。徳川の基盤を確立して置くためにいろいろ無理難題を外様大名、譜代大名、旗本に押しつけていた時代。家光の時代。江戸城を中心にして江戸の街が造られていくそんな時代。豊臣秀吉の五千万両とも一億両ともいわれる莫大な財産を秀頼より奪い取った家康が、駿府と江戸に分けて隠した財産。特に駿府の財産の在処は闇の中、それを巡って物語は進む、最初は江戸城の建設、それにかり出される農民のなどが中心になっているが、そのうち30万人ともいわれる浪人を集めてルソン、カンボジアなどに進出しようと画策する由井正雪が登場してくる。時代の変わるとき、以前の常識が変わってきたときに大きな発想。海外飛躍を夢見る由井正雪、丸橋中弥と松平伊豆守との戦い。戦国時代から徳川時代の仕組みが確立しつつある変動の時期のダイナミックな物語です。現代の閉塞感の漂う時代、こんな大それた事を考え、実際実行してもまた面白いのかも、結果は?です。明治維新の江戸城無血開城までの物語として出発したこの物語も由井正雪で終わった。(でもそれもやむを得ないと作者も言っている)
柴練の特徴のでた代表作と言える作品ではないかなと思う。