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本に出会う

海岸列車

書名:海岸列車(上)
著者:宮本 輝
発行所:毎日新聞社
発行年月日:1989/9/30
ページ:362頁
定価:1165円+税

書名:海岸列車(下)
著者:宮本 輝
発行所:毎日新聞社
発行年月日:1989/10/30
ページ:321頁
定価:1165円+税

両親が離婚してその父も幼い時に亡くなってしまった。父の弟(叔父)に育てられた兄(手塚夏彦)と妹(手塚かおり)の物語。物語は叔父が亡くなるところから始まる。叔父は銀行副頭取を経て、退職して著名人など昔の人脈を使って講演会などを会員制で組織する団体モス・クラブを設立して老後の活動をしていた。会員800人、職員35人の所帯を率いていた。その叔父が亡くなった。叔父の手伝いをしていたかおりが後を嗣ぐことが決まった。25才の若い会長が。兄は副会長、東京事務所長という肩書きはあったが、実際はモス・クラブの仕事は叔父任せ、年上の有閑マダムのヒモのような生活をしていた。しかたなくかおりが会長を引き受けることになった。

その叔父の葬式が終わった後、かおりは一人で山陰本線に乗って「鎧」という駅に行く。そこはかおり兄妹の母がいると叔父が教えてくれたところ。叔父が生きているときから兄は兄で、かおりはかおりで何か迷うことがあるとそこを訪れていた。でも母には会わずに、駅についてそこに置いてあるベンチに座って、そして帰ってくるというだけ。
そんなとき城崎の駅で戸倉陸離という弁護士と出会う。かおりが一人でモス・クラブの経営を本気にやろうと決意する。そして兄夏彦がアフリカの砂漠に植林、農園を作るプロジェクトに挑戦しようとする過程を二人が出会う人、出来事を綴っている。宮本輝の小説は結論のない物語が多い。この小説もやっぱり結論は?長編ですが読みやすく、どんどんと興味を読み終えてしまった。

本書より
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 「自分は必ずモスクラブの会長として、北京で劉慈声と再会してみせるって決意したら、きっとそのようになるでしょう。」
 「決意ですか?」
 「そう決意です。このようにしたいと望むのと、こうしてみせると決意するのとでは、結果が違うんです。決意しなきゃあ」

「生きるにあたって、何等かの依りどころを持っていない人はないであろう。人間は、必ずや何かを依りどころとして生きているはずである。(略)そして、いったい何を依りどころとするかで、一つの人生の方向も、その行き着く先も変わってしまうということは、またまぎれもない事実なのだと思う。」

「人間には、生と死以外に大切なものなんてないと思った。生と死をめぐって、人間の妄想が、どうどうめぐりをしている。でも、おんなじように、生と死をめぐって、奇蹟みたいな実体も動いている。」