書名:盛永宗興老師法話集 無生死の道
著者:盛永 宗興
発行所:柏樹社
発行年月日:1988/6/10
ページ:217頁
定価:1236円+税
著者は「生死」ということばを「ダイナミックに躍動する大きないのち」と受け取ってそのことについて講演した内容をまとめた法話集です。著者の送ってきた人生を振り返りながら、禅、ほとけ、生死について自分の体験をもとにして比喩話と語ってくれる。そして決して価値判断はしない。評価もしない。淡々と述べるだけ。これはすごく迫力がある。また感動する。こころを動かされるそんな本です。今の教育で一番問題は「信じる」ということを忘れたこと。「先生を信じ切っている」そんな生徒、学生、親は皆無になってしまった。教育の原点は相手を「信じること」これって当たり前のこと。先生より高学歴になって先生を評価してしまう親。人を馬鹿にすることが偉いこと。そんな時代になってしまった。どこかおかしい。そんな基本的なことを感じさせてくれる良書だと思う。
本書より
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われわれの人生は、出発点としての「生まれる」とき、何一つ選ぶことは許されませんでした。百パーセント無条件に与えられたもののみによって、生活し始めたのです。そして、その与えられたものを失うときも、どれから、どのようにして手放してゆくかを、拒否することも選ぶこともできないのです。それでも昔の年寄りたちは「いただいて来たものは一つ一つお返ししてゆかなければならぬ」というような諦観を持っていました。でも「自ら選び、自ら創る」という考え方に慣れきっている現代人には、もはや、このような諦観は簡単に受け入れられないでしょう。
今世紀の科学の急速な発達は、人類に大きな利便と安楽をもたらす技術を生み出したが、同時に地球の自然環境を変え、人類の限り無き欲望と果てしない競争心を植えつけ、こころの平安と豊かさを損なうようになった。(中略)
いわば人間は、人間性を獲得せんがために、人間性をある程度犠牲にしているともいえる。人間を生み出したこの地球上の「自然」なるものにもし意志感情があるならば、この人間の虫のよいやり方を決していつまでも許容していてはくれないであろう。(ノーベル化学賞福井謙一)