書名:マリー・キュリーの挑戦 科学・ジェンダー・戦争
著者:川島 慶子
発行所:トランスビュー
発行年月日:2010/4/5
ページ:210頁
定価:1800円+税
“偉大な科学者にて良妻賢母”として知られるキュリー夫人の生きた時代を現代の視点で見直している作品。キュリー夫人については女性で初めてのノーベル賞、それも2回受賞。また娘もノーベル賞を受賞しているということ位しか知らなかった。この本はキュリー夫人の生涯に関わったいろいろな人々、学会の中での問題、家庭問題、恋愛問題など今までの伝記では採り上げてこなかった問題について鋭くついている。
キュリー夫人の別の一面を捉えている。それによってキュリー夫人の価値が下がるわけでも上がるわけでもないが、興味をそそられる。
働く女性が当たり前になった現代と通ずるところもあるが、キュリー夫人の時代は家庭のことは夫婦で分担していた訳でもなく、またキュリー夫人が分担していた訳でもない。当時はお手伝いさんを雇うことが容易であった。したがって現代の女性からすればかなり楽な位置にいたことも研究に打ち込めたことも忘れてはならないこと。ラジウムの製法特許なども取らずにオープンにしていた。また後輩、弟子にも情報自由に公開していたとのこと。学者としてのキュリー夫人の一面を伝えている。
目次
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序―マリー・キュリーが投げかける問い―
1 少女の怒り
四つの要素/喪われた祖国/少女マリアの夢/「女らしさ」を超えて/答えの出ないジレンマ
2 三つの恋の物語
悲恋に耐えて/故国を捨てた恋/尊敬と愛情/ピエールの突然の死 /予期せぬ不倫/年下の男/「ランジュヴァン事件」と二度目のノーベル賞/数奇な運命/たたずむ男の想い
3 ノーベル賞を有名にしたもの
ノーベルの遺言/格好の受賞者/年を取らないともらえない?/国と国との競争/科学者たちの縄張り争い/悪用された成果
4 墓はなぜ移されたか
パンテオンに眠る最初の女性/墓を移す/フランスの自負/原子力政策とのつながり
5 誤解された夫婦の役割
「理性的な男/感情的な女」というステレオタイプ /「頭脳はピエール、肉体労働はマリー」ではない/ウラン放射線と出会う/徹底した定量実験/新元素を取り出す/賞賛の裏側/原子の意味を変える
6 二つの祖国のために
マリー、戦場を駆ける/戦争と女の関係/悲願のポーランド独立/マリーの戦争観
7 ピエール・キュリーの「個性」
脇道を行く/ピエールの結婚観/自分たちに合った結婚生活/いやいやながらの選挙運動/「負け犬」の崇高な野心
8 科学アカデミーに拒まれた母と娘
女性会員はいない/もう一人の候補者/政治と宗教のねじれた関係/怒りと抵抗/娘イレーヌの闘い
9 変貌する聖女
書き変えられる伝記/見かけだけの平等/第二波フェミニズム運動/新しい伝記への批判
10 マルグリット・ボレルとハーサ・エアトンとの友情
シスターフッドの価値/女が男の所有物だった時代/キュリー母娘を助ける
11 放射能への歪んだ愛
見過ごされた放射線の害/夫妻の症状/広がる犠牲者/甘く見積もられた危険性/「薬は毒」
12 アインシュタインの妻
恋に落ちた留学生/アインシュタインの家族/ミレヴァの母性/「そこそこ」の美人という条件/潰されたキャリア/離婚、そして死まで
13 リーゼ・マイトナーの奪われた栄光
忘れられた「原爆の母」/裕福なユダヤ人の娘/逆境の中で/「淑女」という鎖/ついにポストを得る プロトアクチニウムの発見/孤独な亡命者/核分裂の発見と証明/ノーベル賞を獲りそこなう/名誉は回復されたが
14 放射線研究に斃れた日本人留学生
ラジウム研究所への派遣/命を縮めた研究/誇るべき日々/近代日本が見た夢/女の一生/女性の生き方の変化/放射能を帯びたパスポート
15 「偉大な母」の娘たち
正反対の姉妹/父親の死と祖父の影響/幸せでなかった少女時代/「粗野な」イレーヌ、「エレガントな」エーヴ/それぞれのノーベル賞
16 キュリー帝国の美貌のプリンス
映画スターに比せられた科学者/キュリー夫人の驚愕/二つの姓を持つ/フレデリックの才能と努力/政治的な闘い
17 湯浅年子の不屈の生涯
日本初の物理学専攻女子学生/「ジョリオ先生」の弟子/戦火を縫って/日本では研究ができない/結婚の条件/大いなるロール・モデル
18 キュリー夫人とモードの歴史
青いウェディングドレス/女性ファッションの激動期/簡素な服装とスポーツの奨励
19 「完璧な妻、母、科学者」という罠
なぜアメリカで歓迎されたのか/ジェンダー・バイアス/「女中」の存在/同業者カップルの困難/何を学ぶべきか
あとがき
参考文献