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本に出会う

重源

書名:重源
著者:伊藤 ていじ
発行所:新潮社
発行年月日:1994/9/20
ページ:428頁
定価:4369円+税

重源(ちょうげん)という名前を知っている人は相当な歴史通だと思う。先日吉川英治の私本平家物語を読んでいたときに重源のことが出てきたので興味を持って読んでみた。この本は東大寺の再建物語作者のこの書にかける意気込みが感じられる力作。
治承四年、平家の南都焼打ちで、日本国の護国寺・東大寺、藤原氏の氏寺興福寺は焼失した。源平合戦の最中、この難にあたり、六十一歳の重源は志を立てた。それは護国寺・東大寺の再建。この実現こそを最大目標とし、“悪”とも結ぶリアリストとして、以来二十五年、八十六歳でこの世を去るまで乱世をまたにかけた謎に満ちた男の生涯描いた作品。

興福寺は藤原氏の氏寺ということもあり、朝廷貴族たちの支援で再建されつつあったが、東大寺の方は誰も手をつけない。そこで僧としては下位の位であった。東大寺の再建を司る大勧進に任命されるように事前運動を繰り広げる。朝廷、鎌倉幕府に働きかけて大勧進になる。時代は乱世、全国から民百姓にいたるまで勧進を受けて民衆の力で再建するというスローガンを立ち上げ、動き回るしかし実際は鎌倉幕府の頼朝を動かして鎌倉幕府の組織を使って、国司、御家人たちの協力を得ることで東大寺の再建を進める。僧というよりは政治家、実業家といった重源。現代でも定年を過ぎた年齢から、誰でも成し遂げれれないような大事業を行った重源を克明に細かく、ゆったりとした名文で綴っている。