書名:日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土
著者:孫崎 亨
発行所:筑摩書房
発行年月日:2011/5/10
ページ:231頁
定価:760円+税
尖閣諸島、竹島に関するニュースで沸騰している昨今ですが、日本の国境問題について殆ど知らない事ばかり、またマスコミも政府も「固有の領土である」ばかりで本当のことは少しも伝えていない。元外務省国際局長という経歴の著者が明らかにしてくれる国境問題の正体だと思います。
尖閣・竹島・北方領土。領土は魔物である。それが目を覚ますと、ナショナリズムが燃え上がる。経済的不利益に、自国の歴史を冒涜されたという思いも重なり、一触即発の事態に発展しやすい。 どうしたら、尖閣諸島を守れるか。竹島や北方領土は取り戻せるのか。
国境問題の歴史を考える上で1945年9月2日に受諾したポツダム宣言、サンフランシスコ講和条約を基本に考えると、尖閣諸島、竹島、北方領土が明らかに日本の領土というのはちょっと無理がある。微妙なところにある。したがって戦後、日本政府および相手国は、ロシア、中国、韓国との国交回復にあたって、領土問題を、意図的に「棚上げ」することで交渉を前に進めてきた。国交回復という大きな問題に対して小さな島々を比べて先人達が選んだ智慧。100年200年単位でゆっくり考えていきましょうということで処理してきた。白黒をはっきりつけると領土問題は戦争に発展する可能性がある。尖閣諸島、竹島が戦争をしないといけないほど価値があるものか?双方でじっくり冷静に考えれば自明のことと思うが、ナショナリズムはそれを許さない。マスコミ、政府の言うことを鵜呑みにせずに自分で考えるには良書です。でも本書だけを鵜呑みにするのもまた問題ですね。やっぱり自分で考えてみましょう。
福島原発の事故以後、マスコミ、学者、政府の言うことが全く信じられなくなってきていますが、最近では唯一書籍だけが信用できる媒体ではないかと思ってしまう。異端であっても何とか出版している。これは出版社の良心か?1万冊印刷すれば何とかペイするようです。
本書より
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ポツダム宣言で、日本の主権は「本州、北海道、九州、四国と連合国側の決定する小島」とされ、日本は合意しており、連合軍最高司令部訓令(昭和21年1月)においては、日本の範囲に含まれる地域として「四主要島と対馬諸島、北緯30度以北の琉球諸島を含む約一千の島」とし、「竹島、千島列島、歯舞群島、色丹島等を除く」としており、終戦後、日本はこの点を明確に理解している立場をとっていた
中国船衝突事件後、何度も耳にする「固有の領土である」と言う主張をしている尖閣諸島について、初めて歴史的に明確に日本領であると宣言をしたのは1870年代である
戦後、日本政府および相手国は、ロシア、中国、韓国との国交回復にあたって、領土問題を、意図的に「棚上げ」することで交渉を前に進めてきた
過去、尖閣諸島周辺の問題は、中国政府と「棚上げ合意」した日中漁業協定により、双方の国の漁船が違法操業している場合は、相手国は、操業の中止を呼び掛け領域内からの退去を促すのみで、取り締まりは、当該国が行うことで、物理的なぶつかり合いを回避してきたにもかかわらず、2010年の漁船追突問題では、管政権は「棚上げ合意など存在しない」というスタンスで、日中漁業協定で処理せず、「国内法で粛々と対応する」という立場を鮮明にした
尖閣問題の「棚上げ」は、かつて、双方の代表によって何度も確認されている
中国は、尖閣諸島を自国領とみなしており、また、1996年以降、米国は尖閣諸島での日中いずれの立場も支持しないとしている状態で、国際的に「領有権の問題はそもそも存在しない」とするのは無理がある
1955-1956年当時、二島返還で決着しそうになっていた北方領土問題は、日ソの関係性の深まることを恐れた米国政府から強い圧力を受けたことで一転し、ソ連側は「領土問題は解決済み」との立場をとり、日本は「国後島、択捉島は日本固有の領土である」との立場をとり、結果、何ら進展が見られなかった
1993年のエリツィン大統領訪日による東京宣言も、棚上げ合意の産物である
安保条約は日本の領土に対する武力攻撃を対象としているのではなく「日本国の施政の下にある領域」に対する武力攻撃が対象である
それにより、北方領土は安保条約の対象ではなく、この点は日米双方で何度も確認がなされている
2007年7月、米国の地名委員会は竹島を「どの国にも属さない地域」に改めたが、韓国の働きかけにより、ブッシュ大統領、ライス国務長官が関与し、韓国領に改められた
これに対して、日本の町村官房長官は「アメリカ一機関の動きにいちいち反応する必要がない」と発言したが、ブッシュ大統領、ライス国務長官が明確に関与しており、また、この機関は地名に関して米国全体を代表し調整する機関であることを考えると、歴史的過ちであるといえる。また、日本の帰属領土を定めるポツダム宣言には、主要4島以外の領土は「我等ノ決定スル諸小島に局限セラルベシ」と記述されており、「我等」の中心は米国であることから、米国が竹島を日本領ではなく韓国領と言えば、日本領にはなり得ない
安保条約第五条には「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する」としている
尖閣諸島は日本の施政下にあり、第五条の対象になるが、それがすなわち「米軍の介入になるか」は、「自明ではない」なぜなら、「自国の憲法上の規定に従って行動する」とあり、米国大統領は、戦争に入る際には、政治的にできる限り議会の承認を得るように努力するはずである。また「主権は係争中。米国は集権問題に中立」としている尖閣諸島の問題に議会と相談することなく軍事介入することはありえないため、したがって米国が安保条約で約束していることは、せいぜい「議会の承認を求めるように努力する」程度であると結論づけられる
2011年、アーミテージ元国務省副長官は「日本が自ら尖閣を守らなければ、(日本の施政下ではなくなり)我々も尖閣を守ることができなくなる」と述べた。つまり、尖閣への侵攻は、一義的には自衛隊が守らなければならず、守り切れなければ、管轄が中国に渡り、その時点で安保の対象ではなくなるということになる
そもそも領土問題とは見解の相違に端を発する。見解の相違は、二国間だけでなく、第三国にあったり、自国内でも見られたり、はたまた時代の変化によってもあったりするもので、国内の世論だけを意識して解決を図るのはナンセンス。さまざまな見解があることを前提に、さまざまな方策を持って解決しなければならない、その解決の手段として、長期的な「棚上げ」という英知も必要であり、実際に過去の外交では、それらがとられてきた。それらの外交が、2010年を機に、大きく舵を取る方向を変えてきている、それに伴って、中国、韓国、ロシアなどの紛争相手国の態度も変化してきている。