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天狗争乱

書名:天狗争乱
著者:吉村 昭
発行所:朝日新聞社
発行年月日:1994/5/1
ページ:451頁
定価:1748円+税

尊皇攘夷と言えば水戸藩、桜田門外の変から4年、幕府に睨まれ続けていた水戸藩。水戸藩門閥派に藩政の実権を握られた水戸尊王攘夷派は農民らを交え千余名を組織して筑波山に「天狗勢」を結成して挙兵する。しかし国内では長州が京都から失脚し、尊王攘夷派不利の状況。幕府軍、水戸藩門閥派の追討を受けて行き場を失った彼らは敬慕する徳川慶喜を頼って京都への行軍を続ける。攘夷断行を掲げ、水戸、信濃、美濃、越前を規律の取れた態度で進む天狗勢だったが、徳川慶喜は自分の身が大事で、見放されしまう。そして非情な最期を迎える。水戸学に発した尊皇攘夷思想の末路を天狗勢の行動を詳細に描くことによって示している。天下が変わる時代尊皇攘夷思想など殆ど知らないままで参加したものもあっただろうが、志とはまったく違った結末、それでも置かれた立場を懸命に生きた人達が居た。そして投降に至るまでの加賀藩の武士達、捕虜になった後での加賀藩武士達の武士道。「士を知る」態度は好感が持てる。しかし徳川慶喜の保身べったりの態度は頂けない。天狗勢も激動の幕末に咲いたあだ花かもしれない。「桜田門外の変」の続編。