書名:この命、義に捧ぐ
台湾を救った陸軍中将根本博の軌跡
著者:門田 隆将
発行所:集英社
発行年月日:2010/4/30
ページ:298頁
定価:1600円+税
この本は2年前に発行された。時期が今年だったら大騒動になったかも知れない。1945年8月15日玉音放送を聞いて、関東軍の山田乙三司令官が選択した「武装解除受け入れ」によって、満州にいた邦人、兵隊は多くの悲劇に翻弄された。ところが駐蒙司令官の根本博は自分の責任で武装解除を拒否し、「邦人を守り抜く」方針を貫き通した。そして邦人4万人がソ連軍から逃れる。そして北京の国民党蒋介石と交渉して日本に帰国させた。この蒋介石の恩義、また戦勝国で話し合ったカイロ会談でも蒋介石は国体を保持することを主張してくれた。
しかし蒋介石率いる中国国民党と毛沢東率いる中国共産党との「国共内戦」、中国の農村地帯を逃げ回って略奪を繰り返していた毛沢東の共産党が日本が降伏した後、ソ連の援助もあって勢力を拡大し、蒋介石率いる中国国民党はどんどん追い詰められていた。1949(昭和24)年6月根本博は九州・延岡の海岸から小さな漁船が夜陰にまぎれて台湾に密航を企てる。途中、座礁や船の故障で、九死に一生を得ながら、根本は台湾に辿り着く。蒋介石の危機にじっとしていられなかった根本は蒋介石に心情を訴える。以前の恩義に報いるために命を捨てにきたと。
感激した蒋介石から根本は「林保源」という中国名を与えられ、軍事顧問を命じられて中国の福建省厦門(アモイ)に行くが、一目でアモイを守り抜くのは無理と見る。そして金門島を死守することを提案する。アメリカからも中国の共産化の動きは止められないと見られていたが、金門島に上陸してきた人民解放軍を壊滅させた。今まで殆ど知られていなかった事実を綿密な取材、関係者へのインタビューを通じて著者が明らかにしたスクープ。歴史ノンフィクションです。 昔の軍人の中にも根本博のような人もいたということが判ってほっとする。またこの本に出て来る関係者は多岐に渡っており、日本人と中国人の交流の深さが強調される。敵国同士であっても心の通う交流があって人間のしたたかさ、義理、恩義などが感じられる。