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本に出会う

見残しの塔

書名:見残しの塔
   周防国五重塔縁起
著者:久木 綾子
発行所:新宿書房
発行年月日:2008/9/30
ページ:357頁
定価:2400円+税

久々に読み応えのある本に出会った。構想取材14年、執筆4年、70歳を過ぎてから取り掛かった処女作。五重塔の日本三名塔のひとつと言われる山口市の、瑠璃光寺五重塔(他法隆寺、醍醐寺)を題材に中世の大工がどうやって塔を作ったか。人は流転し消え失せあとに塔が残った。五重塔の誕生をめぐる人びとの数奇な運命を新田義貞の子孫若狭新田家の人々、平家の落人と言われる日向の国椎葉村出身の一人の若者を主人公として描いている。

日本語の美しさ、文章の美しさ、格調の高さ、文章構成の妙、に感心してしまう。綿密な取材、必ず自分の目でしっかりと見つめている。教養と感性の高さが感じられる作品だと思う。最近の作家には持っていない漢語、古文の素養。戦前の教育を受けた人に特有な特徴かもしれないが、一文一文に美しさと格調の高さ、滲み出てくる暖かさ、優しさを感じる。洗練されている。

文中で五重塔はその姿を見た人間には「美残し」だが、巡り会えなかったものには「見残し」の塔だと考える。とあるように例え見なかったとしても心にはっきりと塔の姿が見える作品だと思う。

「大工たちは神の手と仏の慈悲と忍耐をもっている。でなければこんなに人の心を打つ塔堂伽藍は立ち上がらぬ」

久木綾子さん89歳の作家デビュー見残しの塔―周防国五重塔縁起
http://im8p.blog25.fc2.com/blog-entry-239.html
五重塔に恋した作家 久木綾子さん - 十色に輝く
http://joblabo.asahi.com/articles/-/689
見残しの塔
http://www.shinjuku-shobo.co.jp/new5-15/shohyo/shohyo_data/389_minokoshi.html