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この道わが道

書名:この道わが道
   信用金庫ひと筋に生きて
著者:小原 鐵五郎
発行所:東京新聞出版局
発行年月日:1987/12/10
ページ:243頁
定価:1200円+税

この本は東京新聞に連載されたものを再編集したものです。連載中「今に株は大暴落する」と予言していた。それは「1987年10月19日の暴落は1987年のブラックマンデー」として現実のものとなった。
信用金庫ひと筋に68年大正、戦前、戦後の激動期を庶民と中小企業の味方として歩んできた「昭和の生き証人」が財テクに走る社会の陥穽を鋭く指摘する。

資本主義社会は、行き過ぎると「お金がすべて」という誤った考え方や個人主義が蔓延し、人々の間にさまざまな格差を生み、人と人とのつながりを断ち切ってしまいます。人と人がお金だけの関係になり、お金が人の心をバラバラにし、孤独にし、本来あるべき良識やモラルを崩壊させてしまいます。現代社会の問題点であるバブルや多重債務、犯罪などは、お金の暴走がもたらしたものです。お金とは、行き過ぎた資本主義が生んだ最大の妄想、「お金は麻薬」なのです。

こうした問題は、実は多くの歴史上の哲学者や経済学者などから指摘されていることであり、古くはプラトンが、「国家論」の中で「人々は金儲けばかりするようになり、自分勝手にふるまい、社会が不安定になってしまう」と指摘しており、また、アダム・スミスが「諸国民の富」の中で、「株主の利潤を追求する株式会社は、国家社会にとって望ましくない」と警告しています。マルクスもケインズも「市場を野放しにすることは危険だ」と警鐘を鳴らしています。

「利益のみを追い求める株式会社よりも、人々が話し合い、良識ある経営を志向する協同組合の方が人間社会にとって望ましい」小原鐵五郎の小原鐵学がよく分かる本です。味わい深い金融哲学、警世の言葉満載の現代人必読の書です。

この中で小原はゴルフはやらない。何故?ゴルフをやると金融機関にいるものにとって危険な政治家とのつきあい、経営者たちとのつきあいなど誘惑に誘われる。公私をはっきりさせる。金融機関の不祥事は公私をはっきりしないところから起きる。情実、知人からの無理な依頼は受けない。毅然とした態度が必要と言っている。自分を律することが難しいからゴルフはやらなない。

この本の約2年後亡くなられた。遺書ともいえる本かもしれない。現代人(人として)が忘れている大きなものを思い起こさせてくれる。