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天平大仏記

書名:天平大仏記
著者:澤田 ふじ子
発行所:中央公論新社
発行年月日:2005/3/25
ページ:261頁
定価:590 円+ 税

天平15年、聖武天皇は金銅盧舎那仏造顕の詔を発せられた。太秦秦氏の奴婢たちの中でも、造仏に卓越した技能を持つ者もいた。良民、賤民としての身分制度の中でも現業、職人などの賤民も多くいた。この大仏建立に携わることで、その身分を良民に直されという詔が発せられた。そんな中に造仏工・天国や当麻呂がいた。最初は紫香楽宮で大仏建立が始まった。

天国の提案する大仏の像全体を8つに分けて下から型に併せて鋳銅を流し込み、冷やし、次の部分に鋳銅を流し込み、冷やしを繰り返していく。という方法をとることになった。ところがこのプロジェクトのキーマンの藤原仲麻呂は橘諸兄との権力争いから紫香楽宮から平城京へ帰還を目指していた。

天下の大プロジェクト大仏建立を賤民の視点にたって描いた作品です。後世の歴史には決して名前は出てこない人々の生き様を描いている。8年の歳月をかけて造仏に全てをかけた天国は、水銀の影響による失明、そして良民にするという約束を反故にされて元の賤民に戻され、仲間部下たちからは怨嗟の目で見られるという立つ瀬のない話となっている。時代は天平になっているが現代にも通じる世界に大きな怒りをもって描かれている。