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花僧

書名:花僧(上)
著者:澤田 ふじ子
発行所:中央公論社
発行年月日:1986/10/10
ページ:267頁
定価:1000円

書名:花僧(下)
著者:澤田 ふじ子
発行所:中央公論社
発行年月日:1986/10/10
ページ:267頁
定価:1000円

『空蝉の花』『天涯の花』と華道時代小説三部作の一つ。池坊専応を描いたのがこの作品。時代は、応仁の乱後から始まり、足利幕府が弱体化し、天皇家も貧困で御所も荒れ放題、天皇が深夜まで「書」を書いたり生活費を稼いだり、天皇の即位の大礼もお金がなくて22年間も出来なかった。大喪の礼もなかなか出来なった時代のお話。

野盗に襲われてその子を身ごもった母、そんな宿業を背負って太郎丸(坊)は美濃国蘇原荘に生まれる。そんな親子を助けたのが修験者明蓮坊。その明蓮坊に連れられ京に出る。明蓮坊は山伏として熊野へと旅だって行く。三条西実隆に仕える千世松を助けた縁で、実隆の小者となり、禁裏警護につき、内大臣久我豊通の娘貴子と出会う。その後太郎丸の出自(野盗の子)が分かって、三条西家を追い出されてしまう。

その後商家の倉を守る傭兵として雇われ、何とか生計を立てながら、六角堂池坊の立花をひとりで学ぶ、長い長い間、消息の分からなかった師の明蓮坊の居所が分かった。吉野の山奥で一人磨崖仏を刻んでいた。太郎丸も師と再会し磨崖仏を一緒にその仕事を手伝う。2年あまり、足かけ10年の末にようやく磨崖仏(阿弥陀如来)が完成する。その完成を待っていたように師の明蓮坊は亡くなる。

立花に志を持つ太郎丸は六角堂頂法寺の学恵に弟子入りして生花ともに花僧の修行を続ける。やがて立花の真髄をきわめ、法院となり、華道池坊を隆盛に導いた。生花は誰でも出来るが仏教の思想を、人の生き死にこころをもったものでないといけないと唱える。この頃は実力主義で家柄、出自を問われない。勿論、権威主義、家柄を後生大事という派もいた。そんな争いを経て法院にまでなる。

現代の池坊は世襲になっているが、これは江戸時代にどこの馬の骨ではなく、血筋を重んじた幕府によって立花ばかりではなく、いろいろな世襲が常識になってきた。実力ではなくても一門を末永く継続させているための知恵だったのだろう。一時の天才、実力者が出て一時栄えても、その後衰退してしまうよりは凡庸でも継続していくことに価値があったのであろう。西行の歌が随所に引用されている。この作品はなかなか良い。中興の祖・池坊専応の生涯を乱世の中に描く歴史長編。