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西行花伝

書名:西行花伝
著者:辻 邦生
発行所:新潮社
発行年月日:1995/4/30
ページ:525頁
定価:3398円+税

平安時代末期、摂関政治から武家政治に変わってゆく時代の崩壊過程を舞台に登場した西行という歌人を主人公にした作品。生前西行(佐藤義清)と関わった人を訪ねて弟子の藤原秋実が、西行の人生をたどりながら、西行の人となりを語っていくと言う構成になっている。

佐藤義清は紀州田仲荘の領主の子として生まれ、裕福な育ちで、武士として一流であるばかりか蹴鞠や流鏑馬の名人としてもその名を知られ、北面の武士の時に鳥羽院の寵愛を一身に受けた、前途輝かしい若武者だった。しかし、そのその輝かしい20代に、彼は家族も地位も捨てて突如出家してしまう。鳥羽院の中宮・待賢門院を慕うあまり出家したといわれているが。

藤原の摂関政治が崩壊しようとしているとき、白河天皇、その子崇峻天皇(上皇)、鳥羽院、弟後白河天皇、源為義、その子源義朝、藤原忠通、平忠盛、平清盛、藤原秀衡など多士済々、そして保元の乱、平治の乱、源平の合戦、平泉の滅亡、時は動乱の時代そこを生きた一歌人西行の生涯を優美な文章で蕩々と描いている。雅とは何か。歌とは、、仏教とは、歌に一生をかけた西行の思いとは?出家をしていながら現世の事に興味をもって掛かっている。人間味あふれる西行とは。

西行は、あまりにも感受性が鋭すぎた、若いときに、世の中のあらゆること(現世も、あの世も)が見えてしまった。この世はすべてが虚空の中にはかなく漂っているにすぎないと見切ってしまった。それを超えるものは「言葉」だ。と悟る。それが歌に傾注したきっかけだった。全編和歌がちりばめられいて、優美な文章で動乱の世を見事に描いている。読み応えのある作品、じっくり読むと味がある本です。「願わくば 花のしたにて春死なん そのきさらぎの 望月の頃」と歌い西行は旅立って行った。

この本で「白河の関」はみちのくの枕詞ということを知った。

本書より
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雲晴れて 身にうれへなき 人の身ぞ さやかに月の かげは見るべき
身を捨つる 人はまことに 捨つるかは 捨てぬ人こそ 捨つるなりけれ
仏には 桜の花を たてまつれ わが後の世を 人とぶらはば
惜しむとて 惜しまれぬべき この世かは  身を捨ててこそ 身をも助けめ
願わくば 花のしたにて春死なん そのきさらぎの 望月の頃
花見にと 群れつつ人の 来るのみぞ あたら桜の 科(とが)には有りける
世の中を 反(そむ)き果てぬと いひおかん 思いしるべき 人はなくとも
世の中を 捨てて捨てえぬ 心地して 都離れぬ 我身なりけり
春になる 桜の枝は何となく 花なけれども むつまじきかな

こんな歌も西行の歌ですね。
人のゆく 裏に道あり 花の山