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たまゆらに

書名:たまゆらに
著者:山本 一力
発行所:潮出版社
発行年月日:2011/4/20
ページ:333頁
定価:1500円+税

青物の棒手振(行商の八百屋)をやっている若い娘、朋乃が商いを始めようと、大川を渡る橋の上で財布を拾ってしまった。江戸時代は拾った財布を番所に届けることは大変なこと。いろいろと聞かれて長い間番所に留め置かれる。朋乃の拾った財布には五十両もの大金が入っていた。拾った財布をどうするかという話題で、朝から昼過ぎまでのほぼ半日のことを一冊の物語にしている。語り部山本一力の見事な話の展開力、江戸の庶民を描かせては右に出る者がいない。また商売、経営、経済、徳、教訓も交えて幅広い知恵が散りばめられている。

朋乃と番所の下っ引き五作の取り調べでのやり取り、お茶の入れ方、お茶請けの話。その財布には朋乃がかつて育った(母の静江は男児が出来ず離縁された)鼈甲を扱う大店の堀塚屋の書き付けが入っていた。落とし主が分かったが、堀塚屋に下っ引き五作、鐵蔵と朋乃が行くと、そこでは若旦那の正悟、頭取番頭久右衛門が応対したが、その財布には覚えがないと否定してしまう。偶然拾った財布を巡り朋乃は大きなもめ事に巻き込まれてしまう。

最初の堀塚屋の応対は普通の商談相手に対応する。熱いほうじ茶、饅頭。段々待遇が変わってきて最上客に接するように大名でもなかなか使わない煎茶に変わってくる。ただ話の内容によって、気分を変える場面にくると、下っ引きはきざみタバコ、他の人はお茶。と番頭が手を打ったりして女中に指示をだす。タイミングが絶妙。ただそれにしてもお茶のシーンがちょっと多くて、トイレはどうするのって心配になる。深川を舞台に江戸情緒豊かな作品で、結末はあっと驚く、感心してしまう終わり方。そして何となくこころに暖かなものが残る作品です。

山本一力さんインタビュー(小説『たまゆらに』の魅力)
http://qrl.jp/?349561