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奈良県の歴史

書名:奈良県の歴史
著者:和田 萃・安田 次郎
発行所:山川出版社
発行年月日:2003/10/25
ページ:403頁
定価:2400円+税

知っているようで知らない奈良県の歴史についてよく分かる説明がされている。正史に現れるところは少なく、奈良県ならではの歴史について詳しく説明されている。奈良時代から室町時代まで奈良県域には地方官が支配した形跡が少ない。基本的には興福寺領ということで朝廷、幕府でも中々支配するのが難しい地域だった。その間も土地領域を巡る争いが絶えなかった。戦国時代の終わり頃に三好衆、松永弾正、筒井順慶などが治め、豊臣秀頼の弟秀長が大和郡山を治めてようやく落ち着く。江戸時代になっても小藩、幕府領、寺社領と細かい地域の支配。

領主も多数で一つの地域としての奈良はなかった。明治時代になって廃仏毀釈、神仏分離によって壊滅的になった寺社、そのときに大量の文化財が消失してしまった。薩長には文化財という発想はなかったのか。アーネスト・フェノロサ、岡倉天心がその価値を世の中に示すことによって初めて文化財ということが分かった。幕末の尊皇攘夷思想の一環として天皇陵の比定が進められ、神武天皇陵が比定され、橿原神宮の設置、皇紀2600年の祝典などで国家神道を推進していった経過などもよく分かる。奈良県の北部地域奈良市から吉野郡あたりまで、南部は殆ど出てこない。幕末に天誅組、十津川村は出てくる。明治に起きた豪雨災害のため村民が北海道に移民した話など。

今ホットな纒向遺跡(桜井市、邪馬台国?)なども新しい知見が入っていて興味をもって読んだ。昭和30年代から奈良の街の発展に従って次々と新しい遺跡、遺物の発見が続いている。平城宮の長屋王邸跡から何万という木簡が出てきた。これからまた新しい発見がありそうです。もっとも長屋王邸跡は奈良そごうになってしまった。でも今はその奈良そごうも倒産した。奈良県はそごうの創業者十合伊兵衛の出身地(正確には橿原市十市町)。その後はイトーヨーカドー奈良店となっている。

奈良県は歴史の宝庫であり、誇るべき文化財の数量が全国屈指の県、でも奈良県による本格的な「奈良県史」は編纂されていない。また原始・古代についての博物館はあるが、中世・近世・近現代を対象とする歴史博物館、歴史資料館がない。と著者はあとがきに書いている。

他の県の歴史と違ってこの本はページ数が多い。記述すべき事が一杯あってやむを得ず増えたとか。