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本に出会う

太地の子

書名:太地の子(一) 山崎豊子全集
著者:山崎豊子
発行所:新潮社
発行年月日:2005/07/10
定価:4935円

書名:太地の子(二) 山崎豊子全集
著者:山崎豊子
発行所:新潮社
発行年月日:2005/08/10
定価:4935円

廣田弘毅内閣の時に全国の貧乏な県の中を選んで村毎、満蒙開拓団として移住させる政策を大々的に行った。一つの棄民政策、日本で食べていけない人々を満州の地に100万世帯(500万人)の計画。そんな開拓団と移住した信濃のある村の家族の翻弄された生き様を描いている。終戦の少し前には関東軍は満州の地を離れて南方へ、残された民間人(老人、女、子供)は見捨てられて、本来守ってくれるはずの関東軍は何処にもいない中、ソ連軍に追い回されて、殺される者、自殺する者。中国人に拾われた子供、命がけの脱出。故郷日本に帰り着けた人達は一握り。村毎全滅、消息不明という悲劇。そんな中中国人に捕まった、7才の勝男、5才のあつ子。勝男は運良く中国人教師の夫婦に育てられ、工業大学まで進ませてもらう。あつ子の行へは?終戦直前に徴兵された父のゆくへは?

 日本人として生まれながら日本語は話せない。勝男の半生を描きながら、戦後の中国、文化大革命、改革開放政策、日中国交樹立、宝山製鉄所(日中大プロジェクト)建設に従事する勝男(中国名:陸一心)、日本の製鉄会社の上海工事事務所長として赴任する松本。戦後の中国を舞台に山崎豊子、10年の歳月をかけて書いた力作。読み応えのある本です。中国の良いところより悪いところを余すことなく書き込んでいる。現地への取材も綿密。
 山崎豊子の作品は写実主義の絵画、上野公園で似顔を書いているような絵画のような綿密さ。また人、着物、建物、工場風景など非常に細かく気を使って書いている。そんな几帳面さも一つの特徴だと思う。ちょっと計算しすぎたきらいがあるところが今までちょっとなじめなかったところのような気もする。
 宮部みゆき、篠田節子なども同じように計算高い作品。計算しすぎたいやらしさがちょっと気になる。でもこんな作品は山崎豊子しか書けない。今後も出てこないのではないかとも思う。