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本に出会う

道元禅師

書名:道元禅師(上) 大宋国の空
著者:立松 和平
発行所:毎日新聞社
発行年月日:2007/7/25
ページ:516頁
定価:2100円+税

書名:道元禅師(下) 永平寺への道
著者:立松 和平
発行所:毎日新聞社
発行年月日:2007/7/25
ページ:604頁
定価:2200円+税

仏教の革命者・道元の全生涯を描いた初の大河小説。日本から宋へ、正法を求めて道元の旅が始まる。第三十五回泉鏡花文学賞・第五回親鸞賞

源平戦乱の余燼さめやらぬ鎌倉初期、京都の摂関家・藤原基房の娘伊子を母に、村上源氏の流れを汲む名門家の歌人・久我通具(藤原定家とともに新古今集の撰者)を父に生まれた道元(道元の出生については異説もある久我通親(通具の親)という説)は、瞳が二重の「重瞳の子」のため天下人か大聖人になるとの予言を受ける。幼少のうちに母を失い世の無常を身に染みて感じた道元は、真実の道を求めて出家する。その時、右門という30才年上の侍従と一緒に比叡山延暦寺で修行をする。そして建仁寺で栄西の弟子・明全に師事したが、正法(正しいお釈迦様の教え)を求め明全、右門とともに博多から南宋に渡って諸山を巡り、曹洞宗禅師の天童如浄より印可を受けるまでを描く。(上巻)
日本に戻って仏教の教えを普及させる為、京都深草に興聖寺を開くが比叡山からの弾圧を受ける。越前国の地頭波多野義重の招きで越前志比荘に移転、その後永平寺となる大佛寺を開く。執権北条時頼、波多野義重らの招請により教化のため鎌倉に下向する。そして越前に戻って『正法眼蔵随聞記』を残し亡くなるまでを描く。(下巻)

『正法眼蔵随聞記』は難しい、現代語訳で読んでも殆ど理解できないのではないかと思う。この物語では右門が優しい言葉で、自分なりにかみ砕いて道元の教えを解説する場面をそれぞれ挿入することで理解出来るようにしている。殆ど仏教のことを知らなかったが右門が修行することに寄ってどんどんと理解していく成長過程を描いている。道元の生涯に付き添った右門の生涯記かもしれない。禅というのは言葉にすると分からなくなってしまう。しかし言葉にしないと後世に伝わらない。禅問答は修行を経てあるレベル以上に師弟、禅僧の間であうんの呼吸で分かってしまうものらしい。そして弟子に印可を授ける。それもお釈迦さんから達磨大師(中国)を経て天童如浄まで伝わっていた正法が道元に伝わったとされる。厳しい修行、それも座禅を徹底行うことによってさとりに至る。そしてさとりに至ってもその上のさとりがある。それは生涯続くととく。原稿用紙2100枚の長編、読み応えのある本です。中味についてはそれぞれの読者が自分で読んで感じ、考えることではないかと思います。

『正法眼蔵随聞記』には「今は云く、この言ふことは、全く非なり。仏法に正像末(しょうぞうまつ)を立つ事、しばらく一途(いっと)の方便なり。真実の教道はしかあらず。依行せん、皆うべきなり。在世の比丘必ずしも皆勝れたるにあらず。不可思議に希有(けう)に浅間しき心根、下根なるもあり。仏、種々の戒法等をわけ給ふ事、皆わるき衆生、下根のためなり。人々皆仏法の機なり。非器なりと思ふ事なかれ、依行せば必ず得べきなり」