書名:お吟さま
著者:今 東光
発行所:講談社
発行年月日:1996/1/20
ページ:330頁
定価:757円+税
今東光は明治31年横浜市伊勢町(伊勢佐木町と間違って紹介されている場合もある)に生まれ、父が日本郵船の船長で各地を転々する。その後旧制中学を退学させられて東京に出てきた川端康成を知り「新思潮」「文藝春秋」などで活躍、菊池寛と衝突して出家(比叡山延暦寺)天台宗の僧侶となって20年創作を止めていた。「毒弁で知られた」全集も出ていない。今東光を研究している人もいないようだ。
なかなか教養もあって見た目と実態は違うように思うが、人は見た目で判断するようです。
「お吟さま」は千利休の養女のお吟を主役の物語。高山右近を慕い、好きだったにも関わらす、他の男と結婚するお吟。でも右近の事が忘れられず、右近が秀吉のキリスタン禁止令で各地の庇護してくれるところを逃げ回っていた頃、離婚する。そしてお茶ひと筋。そんな頃秀吉にお見栄する機会があり、秀吉が一目でお吟を気に入ってしまった。秀吉と千利休、利休切腹の真相は?「一時言われたお吟のことで利休は意地を通したと」160ページ程度の短い文章ですが、なかなかの名文、良くできた展開です。なかなか面白い。
もう一作が「弱法師」平家滅亡のおり、平重衡が興福寺、東大寺を焼いて大仏の首が落ちた。その原因を作った。文章博士で法師の西乗坊の平家・清盛を罵倒する名文。この一文を巡って清盛が大いに怒って西乗坊をとらえて八つ裂きにせんと平家の軍隊をもって追いかけ廻る。ときは移っておごる平家も滅びて、義仲、義経もいなくなってしまった。西乗坊は名前を変えて昔の追ってきた遊女と故郷信濃更科で念仏三昧の生活を送る。そんなひとつの源平盛衰記です。あとに残る物がある作品。