書名:天空の橋
著者:澤田 ふじ子
発行所:徳間書店
発行年月日:1997/6/30
ページ:265頁
定価:1600円+税
城崎温泉の湯治宿の下働きだった15歳の少年、八十松は毎年湯治にやってくる積問屋の高野屋長佐衛門の手によって「五条坂・清水焼」の窯元亀屋で陶工修行することになった。
京焼のブランドとして「粟田焼」と「五条坂・清水焼」があったが、粟田焼の方が品質も上、ブランドも上だった。高野屋は「五条坂・清水焼」を優れた京焼に育て上げることを夢みていた。「粟田焼」随一の陶工であった喜助を引き抜いて八十松を弟子として厳しい修行をかした。
「粟田焼」と「五条坂・清水焼」。江戸・文政年間の京都を舞台に、優れた京焼を作ろうと励む人間たちの姿をいきいきと描いた作品です。作者のよそ者を排斥する京都人に対する憎しみがこもったような箇所も出てきてなかなか興味深い。
雑学として今では高級料亭などで知られる祇園、幕末の貧乏志士達が利用できる程度の岡場所だった。格式の低い場末。それが明治時代以降に隆盛となって高級なイメージに変わったとか。
四条大橋は江戸時代を通じて大橋は架かっていなかった。河原に降りて川の水が増えると流されてしまう小さな橋が架かっていた。大橋を架けても流されてしまうため。
「清水の舞台から飛び降りる」人間が切羽詰まったとき発する言葉とされているが、願掛けて本当に飛び込んで死んだ人、けがをした人が実際にいたようだ。文政年間23人飛び降りて13人が死んだ。逆に10人は怪我ですんだようだ。その人たちはその後どう生きたかは残っていないみたいです。清水の舞台は約12メートル(4丈)の高さ。18メートル(6丈)の幅がある。
澤田ふじ子の作品には作品に登場する場所、建物、人物などを時に詳しく説明している箇所がある。話の本筋がわかりにくくなることもあるが、これもまた楽しい。
本書あとがきより
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「私は歴史(時代)小説を書いているが、古い歴史の事象を、あれこれいじっているつもりはいささかもない。人間はいつの時代でも、取りまく社会の状況が変っただけで、本質においてはさして変化していない存在。こうした人間に、時代物の衣装をまとわせ、私はいまの人間や社会を描いているつもりなのである。」
「現代は政治・文化などあらゆる分野で混迷が起き、なんの指針も見えない時代だ。科学文明の発達が、人間の精神を社会的にも個々の生活でもひどく蝕んでおり、それに歯止めをかける強い意志が望まれている。人として誠実に生き続けていれば、今は見えなくても、必ずどこかに理解者はいてくれる。そんな思いをこめ、私はこの作品を書いた。」