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四度目の氷河期

書名:四度目の氷河期
著者:萩原 浩
発行所:新潮社
発行年月日:2006/9/30
ページ:459頁
定価:1800円+税

物語は博物館に眠るクロマニョン人のミイラに「父さん」と呼びかけるところから始まる。父親の存在を知らずに育った一人の男の子。田舎の町で研究所で働くお母さんと二人きりの慎ましい生活をしていた。大きくなるにつれて他の子供達とは違う外見がきっかけででいじめられ陰口を叩かれる中、少年は自分の生い立ちを薄々ながら感じだしていたのだ。そして「僕はお母さんがロシアに研究留学(遺伝子工学)しているときに人工授精で生まれたクロマニヨン人の息子。だから僕は普通の人とは違う。ということを信じ込んでしまう。突拍子もない設定であるが、思春期を迎えて自分の存在意義や、やりたいことなど苦悩する少年が育っていく過程を描いている。僕の体には1万年前のクロマニヨン人の血が流れている。そう思い込んだ少年の青春長編小説。

DNAの研究で現在の人類の先祖はアフリカの一人の女性から生まれ、広まっていったということが言われている。肌の色も黒かった。それが世界各地の気候風土に合ったよう色に染まっていった。肌の色の違いなんてわずかな環境の違いに過ぎないとのこと。地球は人類のためにあるのではなく、第四氷河期が最新の氷河期、今後次の氷河期がくるかもしれないけれど、人類の都合に合わせて地球が何かしてくれる訳ではない。そんな氷河期がきても生きていけるように決意する少年の行動はやっぱり人とは違う。でも何処かその桁外れの行動が羨ましくも懐かしくもある。1万年前に原点復帰した感覚にさせられる。なかなか面白い作品です。