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江戸の遺伝子 いまこそ見直されるべき日本人の知恵

書名:江戸の遺伝子 いまこそ見直されるべき日本人の知恵
著者:徳川 恒孝
発行所:PHP研究所
発行年月日:2007/3/5
ページ:253頁
定価:1500円+税

 本書の著者は徳川宗家第18代当主の徳川恒孝氏です。江戸時代のことを悪い時代ということが当たり前だった。薩長の明治政府からすれば当然江戸時代を良く言うわけはない。でも本当のところどうだったのか?

この本は徳川家の子孫という立場ではなく、素直に江戸時代を評価し直している。一読の価値のある本。西欧文明にない日本独自の文明、文化に触れることが出来る。江戸時代の武士は5%程度、そして土地の所有は豪農、自作人で武士は土地は持っていない。権力はあるけれどお金はない。大名も領地を支配しているといっても税の徴収権。幕府は直轄領の税の徴収権。西欧諸国のように領主が土地を持っている訳ではなかった。そして大名の領内は大名に任す、名主に任す。

飢饉災害などの時は幕府が支援する場合もある。大名は幕府に税金は納めない。その代わり公儀の工事の賦役を負担する。簡単に言うと小さな小さな政府、江戸町奉行は300名程度で行っていた。江戸時代は世界の中でも希に見るすばらしい世界。江戸時代を見直すことで現代の経済合理性(儲かるか、儲からない)を追求する世界で先の見えない閉塞感から脱出することができるのではないか?

江戸時代の教育制度は一人一人にあった実践教育を行っていた。そして自分が学びたいものが学べた。謝礼もそれぞれの懐具合にあったもので良かった。慶應義塾の福沢諭吉が授業料なるものを定めてから教育はゆがみはじめた。マルクス主義で教師は労働者だと言い出してから聖職者はなくなってしまった。江戸時代の良いところを能動的な視点で描かれている。「逝きし世の面影」に並ぶ良書ではないかと思う。また著者の教養があふれている。江戸時代と世界史の出来事を同時に眺めた視点から書いている。

本書より(外国の教授、国際政治学者から徳川氏に言われたこと)
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「私は世界の歴史の中で、徳川家康公は最も素晴らしい指導者だったと確信し尊敬している。そして現在の日本人が彼を正しく評価せず、狸親父などと呼んで、日本が西欧に遅れたのは彼のせいである、とまるで罪人のように評価していることに激しい憤りを感じている。世界のどこの国でも、家康公のような指導者が出て、三世紀に近い平和を維持してその国の基本の文化を創ったならば、『国父』と呼んで町々に銅像を建てる。日本がそうしないのは全く不可解である。若い貴方はその家康公の子孫として、徳川家を継いでいることにぜひ高い誇りを持って欲しい。そしてこの偉大な人物に対する誤った評価を正すように努力して欲しい」

「徳川幕府というのは政権の初期と末期に二つの見事な政治的判断をした極めて稀な政権である。この政府は当時の世界情勢の中でベストなタイミングで鎖国し、二百数十年たってギリギリのタイミングを外さずに巧みな外交交渉で開国に踏み切った政府で、この国際情勢に対する判断はまさに絶妙なものだった。普通、政権はその創世記には大体において正しい判断をするが、終焉気にはあまりにも誤った判断をすることが多い中で、しかも限られた情報しかない鎖国体制の中で下した開国の判断は見事なものだ」