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塙保己一推理帖 観音参りの女

書名:塙保己一推理帖 観音参りの女
著者:中津 文彦
発行所:光文社
発行年月日:2002/8/25
ページ:343頁
定価:848円+税

塙保己一(はなわ ほきいち)が主人公、学者として全国の各地に残されている古史古伝、資料、手紙などを集めて分類整理して『群書類従』(正編1270種530巻666冊からなる)を編纂する忙しい毎日を送っている。そんな塙保己一が探偵役として登場する。塙保己一は江戸時代を代表する盲目の国学者。
そんな学者が市井の事件に興味をもって顔をだしてくる。また南町奉行根岸肥前守鎮衛(名奉行、耳袋の作者など多才)も登場する。「観音参りの女」「五月雨の香り」「亥ノ子の誘拐」の三編の連作。

短編ですが、どれもどこか悲しいやるせない人生を感じてしまう。保己一の生い立ち、幼い頃病気で失明した彼がどのようにして学者になったか?保己一の半生もところどころに出てきて引き込まれてしまう。江戸の町人の暮らしの中に起こる犯罪、それを盲人特有の勘で探り出し、謎を解く。でもそれは哀しい結末。

「観音参りの女」では遊郭に行った大店の主が印形を忘れてくる。その印形を遊女が人を通じて正直に申し出てくる。この女に感激した主が、遊女を郭から請け出す。遊女は主の下女として隠居所で働く、そして子どもが生まれる。そして子どもと女は火事で焼け死んでしまう。火付けの疑いが、この事件の
何となく寂しい結末。簡単にいい人と、信じてはいけません。

「五月雨の香り」盲目で美人の妻が、強盗に襲われた操を奪われる。そして書き置きを残して自害してしまう。お香の素養が犯人へ導く、その後夫が犯人を捜し、敵を討つが、なんともやるせない物語。

「亥ノ子の誘拐」遊郭の主人の4才の子どもを遊びに連れて行った、商家の主人が子どもの誘拐にあってしまう。身代金200両を払うが、子どもは大川で溺死体で見つかる。そこには元遊女の怨念が。そんな事件を保己一が淡々と解いていく。でもどれも哀しい、哀れ。やりきれないね。