書名:天明の密偵 小説・真菅江澄
著者:中津 文彦
発行所:文藝春秋
発行年月日:2004/8/30
ページ:330頁
定価:1714円+税
日本民俗学の先駆者、菅江真澄(白井秀雄)の生涯を描いた歴史小説です。三河の国渥美郡に生まれた白井秀雄は漢学、画技、和歌に優れ信濃、出羽、陸奥、そして蝦夷地へ長い旅を続ける。旅先の各地で、土地の民族習慣、風土、宗教から自作の詩歌まで数多くのフィールドノート(記録)を残している。
田沼意次から松平定信の時代、蝦夷地の松前藩に渡り、蝦夷地の民俗・歴史・地理・文学・考古・宗教・科学など多岐に渡り調査している。その生涯を描いている。
小説としては田沼意次派、松平定信派の抗争の一環として蝦夷地の探検、北方領土の問題、外敵が現れてきた時代。この白井秀雄もひとりの密偵として蝦夷地へ渡ったという設定にしている。反田沼派として。田沼意次が失速すると、今度は松前藩は松平定信に睨まれる立場となってしまう。松前藩と良い関係を持っていた白井秀雄も、幕府の密偵と疑われて命からがら津軽海峡を渡る。その後久保田藩(秋田)を拠点として生涯を終える。今で言う民俗学者、文化人類学者の走りといった生き方。
浅間山の大噴火、東北各地の飢饉そのまっただ中を蝦夷地に何故?いったのか?武家社会の生き方とは全く違う放浪の旅、またそんな放浪者を支えてきた農村社会。松尾芭蕉の生き方とも似たようなところがある。江戸時代の懐の深い社会というのが見えてくる気もする。