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遺伝子はダメなあなたを愛している

書名:遺伝子はダメなあなたを愛している
著者:福岡 伸一
発行所:朝日新聞出版
発行年月日:2012/3/30
ページ:236頁
定価:1400円+税

福岡伸一、生物学者のとても楽しいエッセイ集。一話1600文字程度で科学の専門的な解説がわかりやすく入ってつぎの話題にという構成になっています。「遺伝子はダメなあなたを愛している」なんて優しい言葉でしょう!「たしかに生命体は子孫を残すように作られています。しかしそれは生物としての義務ではありません。

生き物には、繁殖に成功しないで一生を終える個体はたくさんいますが、子孫を残せなかった個体にも罰や不利益はありません。」と生物は子孫を残すことだけが目的ではない。
「ゴキブリって絶滅した方がよくないですか?」みんなに嫌われているゴキブリ、このゴキブリは本当に嫌われないといけないの?人間よりずっと長く生き延びてきたゴキブリにエールを送っています。

LEDで省電力になった。でもその明かりは寂しく感じませんか?蛍はエネルギー・光効率は85%LEDは20%効率が良いほど冷たい光。白熱電球は10%、ろうそくは1%効率が悪いほど暖かい光。
コラーゲンを食べて美肌効果ということについても。コラーゲンでお肌つやつや! というのは、そういう気がするということ。その心理効果までは否定しません。けれど、生物学的には、髪の毛を食べたら、髪の毛がふさふさ! と同じ主張になります。コラーゲンを食べても即吸収されるわけではない。

自然のシステムが巧みに出来ていること。チョウの幼虫は種類ごとに餌となる植物を禁欲的なほどにかぎっているのだ。アオスジアゲハはクスノキ、キアゲハはパセリやニンジン、クロアゲハはミカンかサンショウ、ジャコウアゲハはウマノスズクサといったように。なぜか。
栄養価的に見ればどんな植物をたべてもさほどかわりがないはずなのに、自らの分を守っているのは、限られた地球の資源をめぐって種のあいだでできるだけ競争が起きないよう互いに棲み分けているからです。

限られた人間の知識、価値観、損得、好き嫌いで自然を見てはいけない。もっと謙虚に自然をあるがままに見るという視点を教えてくれる。蝉は地上に出て7日間の命と気の毒に思わなくても、7年の寿命をもっているのだという視点。中々面白い本です。福岡伸一という人、教養がある人だと思います。絵画なんかにも通じている。DNAで決まっているように思っているがDNAというのはアーカイブ、過去は見えるが、将来は判らない。その人、その生き物の環境、人と人のコミュニケーションなどいろいろなもので決まってくるもの。自然の不思議、優しさ、厳しさ。命や遺伝子を決定論でとらえるのでなく「もっと個体の自由度を尊重すべき」「遺伝子は産めよ増やせよといっているのではなく、むしろ自由であれ、といっているのだと私は思う。と言っている。