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五二屋傳蔵(ぐにやでんぞう)

書名:五二屋傳蔵(ぐにやでんぞう)
著者:山本 一力
発行所:朝日新聞出版
発行年月日:2013/3/30
ページ:468頁
定価:1800円+税

久々の山本一力作品です。「五」足す「二」で「しち」。「五二屋」とは質屋のこと。客の人生まで預かる質屋稼業の物語。人情味あふれる傳蔵の活躍を描いた長編時代小説。山本一力の得意とするところ。
てきやの若頭だった傳蔵が才覚を買われ、深川で7代続く「五二屋」の当主になったのは二年前、前当主伊勢屋維助が傳蔵が不惑を迎えるまでじっくりと十三年間、その人柄を見続けた結果、是非にと請われて義理もあって江戸の老舗質屋を継ぐことになった。物語は4隻の黒船が浦賀沖を江戸湾へ北上するところからはじまる。

黒船来航に揺れる江戸の街を舞台に質屋稼業を通じて江戸情緒いっぱいの物語。
本当に金に困った客、盗品を持ち込む輩、そして襲撃を企む盗賊団、傳蔵が鋭い洞察力と深い情をもって行動する。傳蔵と盗賊「唐墨の龍冴」との丁々発止の戦い。いずれも緻密な計画で襲撃をはかる。それを防ごうとするお互いの行き詰まるような情報収集戦は見物。人から嫌われていた質屋稼業を取り上げて社会に存在する意義を説いているところもある。山本一力の新たな視点が面白い。

商売の基本的なこと、人と人のつきあい方、経済など基礎的なことを何気なく物語の中に散りばめている。江戸時代だけではなく現代にも通じる普遍的なものが詰まっているように思う。