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平成日本の原景大正時代を訪ねてみた

書名:平成日本の原景大正時代を訪ねてみた
著者:皿木 喜久
発行所:扶桑社
発行年月日:2002/12/10
ページ:227頁
定価:1333円+税

2002年は大正時代の始まりから90年、大正時代成人だった人はほとんどいない。今年で101年となる。「大正」の由来は『易経』彖伝・臨卦の「大亨以正、天之道也」(大いに亨(とほ)りて以て正しきは、天の道なり)より。たった14年と5ヶ月の短い期間。維新、開国、西洋化の急激な変化の明治時代。そのとき活躍したリーダー達も段々亡くなっていくとき。

山本夏彦のエッセー集「愚図の大いそがし」では「大正デモクラシーをひと口で言うと<猫なで声>と答える」としている。恋愛が謳歌されて、儒教と断絶して、挨拶の口上が言えなくなり、新聞の社説が文語文から口語文となった。のびのびとした大正ロマン文化が花開き、大正自由教育運動などの教育や大正期新興美術運動など芸術で自由な考え方や自由を尊重する試みが行われた。

大正時代は日本史上の他の政治制度より一番ましな民本主義(戦後の民主主義の基礎)が誕生して欠陥もあるが、戦後日本の政治思想の基本となっている。近代国家を建設する制度のデモクラシーが、社会主義思想や平和主義思想と解釈されて、天皇制など日本の伝統を否定する考え方と混同されたのが、大正時代であった。また日清日露の戦いを終えて軍人が余った。軽蔑された。迷惑がられた時代。原敬内閣で初めて政党内閣が誕生した。この忘れられたような14年間に戦後の日本の原景が観られると述べている。

この本は産経新聞に連載されたコラムを単行本にしたものです。大正時代のことをわかりやすく説明しています。女性の社会進出など、海外進出なども戦後起こったことの原点はほとんど揃っている。戦後アメリカ軍に寄ってもたらされているとされる民主主義も実は吉野作造の民本主義が原点。今を生きている人達の歴史の物差しにはもう大正時代はない。したがって「今まで経験したことがない」と考え勝ちだけれど。もう少し歴史観を持つと、ちっとも新しいことでも何でもないことが判る。なかなか面白い本です。でも山本夏彦の著作にはそんなことはすでに書いていますね。ちょっと2番煎じという気もするけれど良く纏めてあると思う。