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原発は不良債権である 「失われた20年」をまた、くりかえすのか

書名:原発は不良債権である 「失われた20年」をまた、くりかえすのか
著者:金子 勝
発行所:岩波書店
発行年月日:2012/5/9
ページ:63頁
定価:500円+税

原発を稼働しないと電気が足りなくなり、その分、火力発電などの燃料費がかさみ電気料金の値上げをせざるを得ないなどという話がまことしやかに報じられ誰しも本当の事だと信じている。でもそれは全くの嘘。実際、原発依存度の低い中国電力と原発なしの沖縄電力は黒字。東電の場合、昨年の燃料費値上がり分はほとんど家庭用の電気料金値上げですでに吸収してしまっています。「燃料費上昇」は口実にすぎません。実は原発は停止していると赤字になるものなのです。停止していても維持費が格段に高い不良債権なのです。と著者は言う。原発村(今では村みたいにおとなしいものではなく原発マフィアと呼ぶ方が適切との声もある)の強力な権力に、当たり前のことを当たり前に言うこと。そのネタを提供してくれます。

原発はそもそも一機数千億円という膨大な建設費がかかり、それを借金で建設しているので多額の返済コストがかかっています。停止していても危険なので多額のメンテナンス費用がかかる。事故の収束もできないので民間の損害保険会社から損保加入を拒絶されている代物です。しかし電力会社が潰れないためには、安全性が担保できないその不良債権を無理やりでも動かさなければならない。昨年は大企業を中心に自家発電施設を整えた企業も多く、電気が足りないなどというのは嘘なのです。不良債権化した原発を抱える電力会社の経営が成り立たなくなるので再稼働しようとしているのです。

実際、電力各社の決算を見ると、原発依存度によって違いますが、すべての原発が止まった場合、各社少なくとも毎年一〇〇〇億から二〇〇〇億円くらいの赤字が見込まれ、依存度四八%の関西電力にいたっては今年二五〇〇億円の赤字、来年は四〇〇〇億円の赤字が見込まれ、数年すると九州電力も自己資本を食い尽くして債務超過になりますね。と言う。

60ページ程度の小冊ですが、中味は濃い本です。10月1日から東京電力の会計ルールを変更した(国会で審議されない省令で)損金を複数年で償却できるようにした。
例えば2011年2兆円の損害賠償費を支払った。とすればその年の決算で閉めないいけない。(普通なら債務超過で倒産)のにそれを何年かに分けて計上できる。そしてその費用を今後の電気料金から支払うという方法。今までの商法では粉飾決算。それを国が認めるというとんでもない。「東京電力を潰さない」という大きな意志(政界、財界、官界)が働いている。と思えてならない。

本書より
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 世界は,1一〇〇年に一度の世界金融危機,2イラク戦争後に顕著になった化石燃料価格の上昇傾向に見られるエネルギー危機,そして3CO2など温室効果ガスの排出に伴う地球温暖化の危機,という三つの危機に直面しています.この三つの危機を同時に突き抜けて行くには,エネルギー転換に伴う産業構造の大きな転換によってイノベーションと投資を呼び起こすしか道はないと考えてよいでしょう.


 巨大なバブル崩壊を,もはや財政金融政策だけで支えるのは無理があります.日本の「失われた二〇年」がそのことを端的に証明しています.いまや巨大な財政赤字という制約のある中で,国内の投資や需要を喚起する経済政策は「日本版グリーンニューディール」以外にないでしょう.さらに,2のエネルギー危機は,石油文明の基礎のうえにたった戦後の経済システムそのものが完全に行き詰まったことを示しています.多くの世帯では,住宅も自動車など耐久消費財もだいたいそろっています.石油文明を基盤としているかぎり,もはや買うモノが無くなってしまったと言い換えてもいいかもしれません.

 環境エネルギー革命が進むと,再生可能エネルギー自体が新しい産業として登場し,スマートグリッドと双方向的な送配電網やスマートシティの建設といった新しいインフラが必要になり,建物の断熱化やスマート化などの新しい建築需要を掘り起こし,蓄電池や省エネのさまざまな新しいシステムの開発,新しい耐久消費財の登場など,広い範囲にその影響が及びます.原発が動かなければ,日本経済が駄目になってしまうという主張が財界の一部などから出されていますが,全く逆です.むしろ,原発依存に後戻りする道を選択すれば,世界で起きている環境エネルギー革命からますます取り残されてしまうのです.

 二〇一二年六~七月に向かって,日本社会はエネルギー政策の転換点を迎えます.六月には東京電力の株主総会があり,七月には再生可能エネルギー法(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)が施行され,七~八月にはエネルギー基本計画が策定されます.それが「失われた二〇年」を断ち切る第一歩となるか,「失われた三〇年」へと向かってしまうのか――どちらを選ぶかを決めるのは私たちなのです.

目次
一 電気料金値上げキャンペーンの「嘘」
二 東電は事実上,経営破綻している
三 核燃料サイクル事業という“不良債権”
四 いかなる電力改革が必要か
五 福島から始める日本再生