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チェルノブイリの真実

書名:チェルノブイリの真実
著者:広河 隆一
発行所:講談社
発行年月日:1996/4/10
ページ:414頁
定価:1942円+税

チェルノブイリ原発事故から10年、その後を自分の手と足と目で取材したチェルノブイリの真実、なかなかの力作です。また福島第一原発事故のその後を考える上でも有効な示唆を与えてくれる。未だにチェルノブイリ原発事故の本当の原因は分かっていない。ソ連の原発を運転していたオペレーターが程度の低いレベルで、いろいろミスを連続して起こしてしまった。全て運転員の2人に責任を押しつけているソ連、IAEAなどもそれの方が都合が良いという理由でその結論に持って行った気配がある。それまでは国家の威信を賭けてソ連の運転員は世界一と盛んに言っていた。と

この本の中でも原子炉の構造的欠陥が原因という説も出てきた。でも真相は藪の中。また被曝で住民避難をさせたが、その真相は住民の健康ではなく、ソ連の財政で可能な人数に制限した。したがって本来なら移住させないといけない場所も置き去りになっている。また被曝で被る健康被害ついても極力小さく小さくさせようとIAEAと結託して、「放射線以外の原因により健康上の被害は見られたが、放射線と直接に関係がある障害は見られなかった」とし、「事故に関連する不安が高レベルで継続し、心配やストレスといった形で多大な負の心理的影響を及ぼした」とまとめています。つまり、チェルノブイリ原発事故による住民の被曝被害はなし、とまとめた訳です。と公式に発表している。(1991年当時)IAEAの健康調査をおこなったのが広島の放射線影響研究所理事長重松逸造を長とする委員会。重松逸造は水俣病をはじめいろいろな公害病が話題になった時にも名前が登場します。

イタイイタイ病では公害認定がなされた後の1976年になって三井金属や自民党等が原因のカドミウムを否定する動きを見せ、それを受けてWHOにカドミウムの見直しを提起した学者の1人が重松でした。また、スモン病の時には厚生省の調査班班長となり、後日原因物質として認定されることになるキノホルムを原因としませんでした。いつも企業側、政府側にたった人物。その弟子に長瀧重信(長崎大、元放影研理事長)広島大原医研の神谷研二、長崎大の山下俊一などです。

その後、甲状腺ガンだけは被曝が原因と確定されましたが、それ以外の症状についてはいずれも統計の取り方の問題やら、学問の手法の違いやらで現実にチェルノブイリの被曝によって起こっているだろうと思われる症状もほっておかれたまま。ソ連とIAEAにとっては絶対被害は小さい、被曝で原因にはしたくないという意図が見え見えです。IAEAとは核の利用の監視役、ある限られた核保有国以外の国が核を持たないかを監視している機関。持ったとすれば視察に行く。核の利用を推進する団体です。したがって住民の被曝とかなんかは二の次三の次、それより原発の安全性、信頼性を落とすような風評を躍起になって抑えようとする行動をとっている。ソ連政府が信用されなかったソ連はIAEAに健康調査を行ってもらって、「問題なし」というお墨付きを貰うということをやっている。

今、福島第一原発の汚染水問題でIAEAが盛んに出てくるが、これは日本政府が信用されないからIAEA(権威があるかどうかしらないが)が言っていると言いたいがためか?と疑ってしまう。
世界の英知を集めないと収束もできないような原発は欠陥商品、根本的なところが間違っている。少なくとも商品というものは設計ができるもの。やってみないと判らないは発明、開発の話。それを住民がに直結する場所で行うという常識外れ?この国はどうなっているのでしょう!
今後の福島、日本の行くへを暗示していなければ良いが。この本は暗示しているように見えてくる。是非とも読む価値のある本だと思う。広河隆一の迫力が伝わってくる。

本書より
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●小児甲状腺ガンは100万人に1人発症するかどうかの非常に稀な病気だ。しかし、汚染地では数千倍の発症率を記録している。早期発見すれば死には至らないとされているが、すでに転移が見られる子も多いのが実状だ。
●ウクライナ・キエフにあるチェルノブイリ子ども民族音楽団「チェルボナ・カリーナ」には原発から3キロの町プリピャチから避難してきた子供達60人が在籍している。救援コンサートを96年4月に日本全国5ヵ所で行った。