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日輪の賦

書名:日輪の賦
著者:澤田 瞳子
発行所:幻冬舎
発行年月日:2013/3/20
ページ:395頁
定価:1800円+税

著者は2010年、『孤鷹の天』で小説家デビュー。2011年、同作で第17回中山義秀文学賞を最年少受賞。2012年の『満つる月の如し 仏師・定朝』で第2回本屋が選ぶ時代小説大賞、第32回新田次郎文学賞受賞を受賞した澤田瞳子の第3作であり、今もっとも注目したい作家です。一作ごとに筆の冴えが際だっています。澤田ふじ子の娘。

飛鳥時代の女帝・讃良(さららの)大王(おおきみ)(持統天皇)と、激動の国造りの物語です。どんな国でも国造りのグランドデザインがあって、倭という国から日本という国号、大王から天皇という国になったのが持統天皇、藤原不比等らによってそのグランドデザインが書かれた。

壬申の乱による国内の混乱、白村江の敗戦、唐と新羅の脅威にさらされていた倭を率いる持統天皇は天智天皇、夫天武天皇の意志を継いで律令(大宝律令)を作り、中央集権国家を樹立することを忍び寄る老い、ただ一人の大王という孤独に耐え、国家の礎を築いた過程が描かれている。律令制というのは法令によって国家を支配する。民を支配するばかりではなく、天皇をも支配することになる。今までは絶対的な権力、権威を持った大王が、ある役割を持った機関としての天皇となる。大王の親族同士で血で血で争う葛藤がない世を持統天皇は目指した。このままでは、この国は滅ぶ。国家存亡の危機にある倭国を舞台に多彩な登場人物がそれぞれ活躍する。

現在の国内の閉塞感と東アジアの緊張が憲法改正の機運を高めている現代と驚くほど似ている。白村江の戦いを太平洋戦争に、唐をアメリカに、大宝律令を日本国憲法になぞらえて読むと著者の真意も見えてくるかもしれない。

物語は壬申の乱後の政情不安な都に、横死した異母兄に代わり、主人公阿古志連廣手が奴碑とともに京(飛鳥)にやってくるところで盗賊に襲われて、忍裳といううら若い男装の女官に助けられたところから始まる。この2人が副主人公として重要な役割を果たす。読み応えのある本です。

本書より
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士(おとこ)やも 空(むな)しかるべし 万代(よろずよ)に 語り継ぐべき 名は立てずして
山上憶良

男と生まれたからには、空しく終わって良いものだろうか。万代に語り継いでゆく名立てることなしに

男子たる者は、高らかに名を響かせるべきである。後にその名を聞いた人々が語り継いでゆくように