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志賀越みち

書名:志賀越みち
著者:伊集院 静
発行所:光文社
発行年月日:2010/3/25
ページ:500頁
定価:1800円+税

大津から比叡を越えて京に入る古道「志賀越みち」(京の七口である荒神口から、近江に至る街道)を通って一人の学生が京都・祇園にやってくるところから物語が始まる。川端康成の「伊豆の踊子」を彷彿とさせる出だしで、物語もこの学生と祇園で一番の売れっ子の舞妓の恋の物語。

時代は昭和38年東京オリンピックの前年、祇園の茶屋の息子久家と東京の山手の貿易商の社長の息子津田雅彦は東京大学に学ぶ3年生。久家に誘われて雅彦は京都にやってくる。そこで居候をしながら京都、特に祇園の中をいろいろ散策している。ある日朝早く、建仁寺の境内でお参りにきた舞妓が、匂い袋を落とした。それを拾ってあげて、一目でその舞妓真祇乃に惚れてしまう。真祇乃は二、三言話す内に好意をいだく。京都のことも祇園のことも何も知らない雅彦が周りの人々に質問する純粋なところに好感を持たれるのか、誰でも親切にしてくれる。この雅彦の疑問の答えが、読者にも納得を与えてくれる。

京都の風習、祇園のしきたり、祇園の歴史(江戸時代の初めに八坂神社の茶屋から始まった祇園界隈の花街)行事など随所に織り交ぜて格調高く話は進む。京都は奥が深い、そして奥の奥がある。京都を祇園と変えても同じ箏が言える。


伊集院静(男)はかつて祇園でも相当遊んでいる人、夏目雅子の元夫、現篠ひろ子の夫でも有名な人。その経験がこの小説の中にはあふれている。物語の本筋も面白いが、周辺の雑話もまた楽しめる。