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恨(ハン)の法廷

書名:恨(ハン)の法廷
著者:井沢 元彦
発行所:徳間書店
発行年月日:1995/9/15
ページ285頁
定価:520円+税

SF小説仕立てで日韓の間にあるわだかまりの根源、相互理解の欠如、掘り下げて韓国の日本に対する嫌悪感という、どうにも厄介な問題に深く切り込んだ異色の作品です。

高速道路でスピンし大惨事となった…高沢次郎が目覚めた部屋は、奇妙な空間だった。そこは天国でも地獄でもなかった。発端は韓国人・林(リム)の発砲だった。高沢が輸出した製造機械に粗悪部品が流用したためトラブルが頻発し、林の会社がたちゆかなくなったのだ。林は逆怨みした。そして銃撃…奇妙な部屋は歴史糾問の場と化し、日韓双方に分かれて民族の角逐を追究しはじめたのだった。

裁判長は古代中国の神「天帝」、立会人は韓国の神話上の人物「檀君」と、日本からは聖徳太子。
この場に登場する人たちは朝鮮民族の祖・檀君、ハングルの生みの親・世宗大王、親鸞、道元、上杉鷹山など。最後に日韓問題の基礎を作った真犯人と思われる中国人・・・十二世紀南宋の朱熹(朱子学の祖)
「悪いのは全て日本だ。日韓に横たわる諸問題は全て、日帝三十六年(日韓併合)が原因だ。日本の文化も政治も、全部韓国が教えてやったものだ。」という主張に対し、日本側が親鸞、道元、上杉鷹山などの証人を参考人として招致し、その主張を論破していく。それも歴史的検証は細かく行っている。
この本はただ単に韓国、日本の言い分だけを列記しているだけでなく、その根本的な日本と韓国と中国の立ち位置の違いをハッキリさせている。韓国の「恨」の思想の根源は朱子学(儒教)にあると、同じ儒教でも日本の儒教には天皇の位置づけがある。天皇の神格化絶対化はそれ以下の人たちは将軍であっても農民であっても天皇以外は平等である。

これはキリスト教の神の絶対の元に人は平等と置き換えられるロジック。ところが中国、韓国は皇帝は天が選ぶ、そして相応しくない皇帝は征伐していい。そして科挙の制度、中国の科挙は誰でも科挙の試験が受けられて、これに通った者は超エリートとして選ばれた人として国家の上層部に位置して、民衆を教える。ところが韓国の科挙は選ばれた両班に所属人だけが科挙の試験が受けられる。選ばれた氏族に生まれない限り科挙の試験も受けられない。それぞれ誇り高い人々、自分たちは絶対正しい。それ以外の文化も文明も、人も劣るという思い込みはなかなか消えない。そして北朝鮮のように共産主義の中で、総督が世襲するということを平気でやっている。中国では鄧小平の子どもが世襲することはない。
これも朱子学の教えから。

日韓、日中、日朝鮮を考える上でいろいろ参考になる基本的な考え方がこの本を通じて見えてくる。勿論井沢元彦の史観も絶対ではないが、参考になることが多いように思う。

この本を読んで韓国の女性大統領の行動を見ていくと、大変おもしろい。「すべて人のせいにする」この奥に朱子学(儒教)が潜んでいる。この本は残念ながら絶版になっているので中古か、図書館で横浜市の図書館には2冊しかない。(単行本と文庫本)