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お順 勝海舟の妹と五人の男

書名:お順 勝海舟の妹と五人の男(上)
著者:諸田 玲子
発行所:毎日新聞社
発行年月日:2010/12/10
ページ:286頁
定価:1600円+税

書名:お順 勝海舟の妹と五人の男(下)
著者:諸田 玲子
発行所:毎日新聞社
発行年月日:2010/12/10
ページ:312頁
定価:1600円+税

「幕末の三舟(山岡鉄舟、高橋泥舟、勝海舟)」といわれた勝海舟の妹、また佐久間象山の妻の順子(お順)の波瀾の生涯を描いた小説です。このお順の目からみた五人の男、幕末の動乱期を生きた人たちを生き生きと描いています。

一人はお順と海舟達の父親小吉。小吉の母親が正妻でなかったために幼い時に勝家に養子に4才で出された。勝家では義祖母にいじめ抜かれ、実家(男谷家)の兄達はそれぞれ立派に、それに反抗してかに若い時には放蕩に限りを尽くす。しかし、家族は大事にし、特に子供達だけはかわいがった。正義を貫く小吉だった。晩年は放蕩もやみ読書と自分の半生を綴ることに生き甲斐を見つける。そんな父親と一緒に住みながら父の書いたものを写本していた。経済的な生活は貧しくも、人間味溢れた小吉は社交関係が広く、頼まれたらいやとは言えず、絶えず世間のごたごたの仲裁に奔走していた。慕ってくる人も多かった。そんな環境に置かれたこともその後の順の生き方に影響を与えたのでしょう。

この中で勝海舟が、吉田松陰と高野長英のことを才能も抜群だが「我慢が出来なかった」それが玉に傷だと云っている。その点佐久間象山は謹慎処分を受けて9年も松代の地で「ひたすら我慢、我慢」それにお順も付き合っている。勝海舟も良く謹慎処分で蟄居していた時代、世に認められず高い高い理想を抱きながら、次の時代への勉学を忘れなかった。そんな兄、夫をお順の視点から記述されている。
変動する時代に生きながら、自分の視点を失わなかった女の一生が描かれている。
どこか幕府が潰れるという中にあってもほのぼのした情景が浮かんでくる。歴史、思想、政治とは一線を画してお順が生きている。面白い本です。