書名:仇花(あだばな)
著者:諸田 玲子
発行所:光文社
発行年月日:2003/10/25
ページ:392頁
定価:1700円+税
この作品は、徳川家康の最後の側室「お六」生涯を描いた作品。史実は寛永2(1626)年、日光御宮に参詣して、神前で頓死したともいわれ、「家康御他界後も俗塵を離れず」にいたとも言われるが、詳細は、諸説があって不明。江戸と駿府を舞台にお六と家康、その他の側室達との出来事。お六を家康に紹介した側室の「お勝」の生き様の違いが面白い。
「お六」を上昇志向の強い野心家で出世主義、実家と兄を出世させようと。しかし、その野心ゆえに様々なものを失っていく女性として描く。欲がなければ人間、死んだも同然ではないか。恋も財も地位も、すべてを欲しがった女。江戸時代の初期と幕末の二つの出来事を書き分け(登場人物名も同じ)ながら物語は進行する。(でも何故幕末が出てくるのか?出世も野心家でもないお六、庶民の一人として家族と暮らす。平々凡々の中に本当に幸せがあるということを暗に言っているように思う)
本書より
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「お勝にはお六の飢えた心が理解できた。あの、失意と怨みと野望がうずまく長屋、生き延びよう這い上がろうと目をぎらつかせる残党(北条家の残党)の群れの中で生まれ育ったのだ。母の優しい胸もなければ、満ち足りた食糧、十分に寒さをしのぐ着物もない。お六が富や力を自らの手でもぎとろうとするのは生い立ちのせいだろう。その姿が痛々しく思えたからこそ、家康の歓心をお六に向け、お六が這い上がる後押しをしてやったのである。」